見る・遊ぶ

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八勝館秋の大茶会満喫
伊藤宗房さん濃茶格調高く 松岡守恭さん田舎家の野趣
待ってました「源氏香」!

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「令和六年中日文化センター栄 秋の大茶会」が2024年11月3日、名古屋・八事の老舗料亭、八勝館で開かれました。前日の嵐のような暴風雨から一転、秋晴れ。絶好の日和に恵まれました。例年なら、この時期は紅葉が美しいのですが、今年はまだ「薄紅葉」状態。日中は汗ばむ陽気でした。文化センターの受講生の日ごろの稽古発表会でもありますが、稽古発表と侮るなかれ、席主の講師は茶どころ、香どころ名古屋を代表する宗匠方。ほぼ全域が国指定重要文化財に登録されている茶の湯名所を舞台に、腕によりをかけて、本番に臨みます。

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茶会・香席ずれしていない点前、所作の真剣味。練達の席主たちの室礼が相乗して、常の茶会とは違った、鮮度の高い興趣が魅力です。


今年は、▷御幸の間 濃茶・裏千家伊藤宗房▷田舎家 薄茶・武者小路千家松岡守恭▷菊の間 薄茶・表千家林達夫▷野点 煎茶松風流仙田梅香▷桜の間 聞香・香道志野流山本まり子、渡會麻子の5流各氏による席が設けられました。参加者はこのうち3席を選び、点心を味わうことができます。

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WEB茶美会は、八勝館ならではの「ご馳走」の田舎家、御幸の間の茶席二つと、大寄せでは珍しく「源氏香」を催す香席を巡りました。

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まず向かったのは、田舎家。滋賀県甲賀にあった2棟の民家を解体移築して、1棟にまとめあげた建物。重文です。先年の火災後、すっかり改修されて、田舎家らしい剛健な武骨さは薄れましたが、渓流がそばを流れ落ちる前庭から眺める茅葺き屋根の素朴な佇まいには、心惹かれるものがあります。

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田舎家席は、武者小路千家の松岡守恭さんが担当。秋の野花を生けた「花結界」を据えた風炉の名残りの趣向が、田舎家によく映ります。雲龍釜、やつれ風炉とも、13代襲名前と襲名後に造った加藤忠三郎さんの作です。釜師には珍しく、当代忠三郎さんは茶名を持つれっきとした茶人です。

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二部屋を開け放ってあるため、床の間が二つあり、軸の兼ね合いが難しいところ。正客に近い荒壁床には橘宗義和尚の一行「杷手共行」、連客が座る座敷には通常だと、寄付掛けの軸のところ、本命の当代家元不徹斎の一行「有朋自遠方来」。荒壁床の天井が低くて、家元の軸が掛からず、苦肉の策だと拝察しました。

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席主の「受講生ともども手を取り合って、お客さまをもてなそう」という心意気やよし。正客のお茶が出た後、なかなか連客のお茶が出て来ず、席主は内心やきもきしていたことでしょう。前日の風雨で炭や灰がしっけたのか、なかなか炭の火がおこらなかったそうです。広い園庭の真ん中にあり、車での搬入ができず、風雨にずぶ濡れ、滑りやすい踏み石伝いに道具を搬入をしたであろう、そのご苦労がしのばれます。それでも、結果オーライ。秋晴れのもと結構なお茶を喫することができることに、感謝の念を募らせました。

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次に向かったのが本大茶会のメイン、御幸の間での濃茶です。実は到着し早めに、濃茶席に向かったのですが、待ち時間がかなりあったので、機転を利かして、田舎家へ。両席ともさほど待たずに、席入りできました。

御幸の間は隣室の「残月の間」とも、近代数寄屋の名建築家の堀口捨己博士によって建てられました。広大な庭から流れ込む水を蓄えた池畔に立つ建築美は格別です。

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濃茶を喫する御幸の間まで、客はなんと5回も場所を移動して、本席へ繰り込みます。

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まず本館の待合から、第二待合を経て、踏み石伝いに園庭を渡って、別棟の離れに上り、表千家の残月亭写しの残月の間にに入室します。この残月では、床飾りに始まって、付書院、点前座、炭道具など本席の展観道具、箱書を一式飾り付けられるのが通例です。

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本歌の表千家残月亭は、太閤秀吉の聚楽屋敷の色付書院を縮小して少庵が建てたのがはじまりとされ、十畳敷の座敷に二畳の天井の低い上段を設け、付書院をそなえ、その前を化粧屋根裏にした珍しい構成です。書院の格調を有しながら、草庵の趣を融合したは独特の空間をつくり出しています。茶人泣かせ、というか、席主の力量、センスが問われる茶室なのです。床天井が低いのに二畳敷きの床畳。軸と花入、花の映り、バランスが超難しく、なかなか会心の室礼に出会うことがまれです。
この日は、室町後期の大徳寺七十六世、古岳宗亘(こがく・そうこう )の墨蹟が掛かっていました。珠光から紹鴎に至る侘び茶深化の時代を代表する高僧です。伝存まれな偈頌。枯淡な筆跡の書をもっと間近で拝見したくても、この残月床では無理。隔靴掻痒のうらみが残りました。開花が待たれた椿、薄紅の西王母に、師走の茶花として重宝されるハシバミをいち早く、胡銅の花入に生けて、バッチリ決めてあります。

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本席の花をどうするのか、心配になるくらい、ピッタと決めて、さすが。名古屋を代表する茶家、伊藤さんです。

全部は見切れないほど、道具や箱書が座に据えられて、展観。金のシャチホコを模した鐶付がある玄々斎好みの釜が目を引きました。主君の知止斎徳川斉荘公の満足気なお顔が浮かぶようです。ここで金城主人の気配を出したがことが、本席の呼び水になっていました。

席主の茶略おそるべし。

 残月で道具拝見後、しばらく、廊下で待機。一席の前半組、後半組と分けて、時間差移動して、最後に御幸の間に合流して、最大50人が同座して、濃茶の点前が始まります。

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大書院の広い床の間に、「養寿」の二字が墨痕鮮やかに躍ります。尾張徳川家の幕末の名君、徳川慶勝公の渾身の書です。ちょっとくだけた大ぶりの古備前の船徳利に、錦木に白の嵯峨菊を挿し入れて、錦秋気分あふれます。真の茶花と草投げ入れ、対比が鮮やかです。
中日文化センター栄は、名古屋・栄のランドマークとして新築なった中日ビルに今春、再び入居。席主の伊藤宗房さんは「文化の殿堂が立派に完成したお祝いの気持ちを込めました」。

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寿を養う、いい言葉です。夫は裏千家業躰(ぎょうてい)、名誉教授で名古屋茶道界を長年リードした伊藤宗観さん。2022年9月25日に宗観さんが永眠後、跡取りの孫が育つまでは頑張ると、娘、嫡男の嫁の細腕ファミリー3人で家を盛り立ててきました。養寿とは、宗房さん自身への励みの言葉でもあると感じ入りました。

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伊藤さんは正客と和やかに会話をしつつ、受講生の濃茶の練り加減もこまめにチェック。お点前さんには、「濃すぎるから」と湯を足して、練り直すよう指導。水屋のたてだしの各服点の茶も、席中にいながら、チェック。「このお茶は私があとでいただきます」と脇に引いて、もう少し緩く練るよう、さりげなく指示するなど、表舞台も水屋も滞りなく差配。たいてい嫌味っぽくなるところ、こんな芸当をサラッとやってみせ、茶会進行にいささかもさわらないとは。至芸です。脱帽です。

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聞香席は、最終回に間に合いました。一席21人、第6回でおしまいですから、うかうかすると、満席になってしまいます。過去、何度か痛い目に遭った経験から、実は真っ先に順番取りしておいたのが功を奏しました。

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美味しい点心をゆっくり食する時間がなかったのが、惜しまれますが、ともあれ、香席寄付に滑り込み。「源氏香」の遊び方のレクチャーが始まってました。

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源氏香は組香のひとつ。5種類の香を5包ずつ作った25包を混ぜ合わせ、5包を取り出し焚いて薫ずる。5包の香りを聞いた客は5本の縦線を引き、同じ香りと思うものの線の上部を横線でつなぎます。この線の組み合わせによって生じる52パターンの呼び名を「源氏物語」五十四帖から採用したものが源氏香図。今年は大河ドラマにあやかって源氏香が、大寄せで出されたものでしょう。
以前の会記を見ると、聞香席は香2種、4包を混ぜ合わせて薫ずる略式でした。

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名にしおう本式の源氏香で遊ぶことができるのは、とてもラッキーでした。ただ、源氏香にちなむ席飾りは希薄です。床の間の軸は先代家元の「香」の一字。菊をあしらった香道具で季節感を演出しているのでしょうか。茶会であれば、時期外れの誹りは甘受しなくてはいけないところ。テーマ、趣向、季節感を視覚化、取り合わせに苦心する茶会に対して、香席の室礼はひねりがなく、物足りなさを感じるのは、私だけでしょうか。
さて、この席の5点満点の正解は「竹河」。茶美会は2点のみあって「夕顔」で沈没。最初と最後の香木は香りや片の様子から、木どころは「佐曽羅(さそら)」の類だとは想像が付きましたが、微妙に香りの出方が違うことから、同木異種とうがったのが、失敗でした。知友が満点。お連れから「幾つになっても、嗅覚だけは動物並みねー」と冷やかされ、「失礼しちゃうわ」。茶美会は「長年の香道精進の成果ですよね」と、無難にカバーしておきました。

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八勝館は、明治時代中期に材木商の別荘として建設され,明治時代後期からは料理旅館を営業しました。その後も建物を整備し,戦後は愛知国体への天皇行幸に備え,1952年に「御幸の間」が堀口捨己によって建設されました。起伏に富む疎林に建つ各棟は、明治期に遡る希少な数寄屋の別邸建築を基盤として発展したもので,良材を駆使して多様で優れた和風意匠が集成されています。
また戦後の堀口の設計部分は,直線的構成や金更紗を仕立てた色鮮やかな建具など,伝統意匠と現代建築の統合を目指した堀口の理念を体現して価値が高いものです。
あの北大路魯山人が愛した名亭としても知られ、以前は魯山人の意匠になる便器が実際に使われていて、魯山人の焼き物も普段使いされていましが、今では便器もお皿も鉢も「お宝」となってしまい、特別な懐石コースでしか拝見できないようです。
しかし、料亭が次々廃業しているこの時代の荒波に抗して、一方で館内に踏み込めば、庭屋一如の素晴らしい景観、維持・修繕が大変な伝統建築を保存している八勝館の姿勢は、立派の一言に尽きます。
会費は、以前より値上がりしたとはいえ、税込み15,000円。八勝館での茶会だと、濃茶、薄茶、点心など基本的なメニューで会費はコロナ禍前であっても3万円からが相場でした。諸物価高騰の折、それでは追いつかないでしょう。ちなみに八勝館主催のお昼の松花堂弁当付きの館内見学会の会費が20,000円です。