春うらら透木釜の侘び・雅
尾州久田流・下村宗隆さん
興正寺「開山忌」薄茶席
2023年3月11日開かれた名古屋・八事山興正寺の「開山忌記念茶会」の薄茶席は、尾州久田流家元の下村宗隆さんが担当しました。はや、ゆく春を惜しむ風情を先取りし、侘び茶に雅やかさも織り交ぜて、透木釜(すきぎかま)ですっきりまとめてありました。重厚、自祝ムード横溢だった裏千家神谷柏露軒の濃茶席が釣り釜だったのと好対照。両席が引き立てあった感がありました。
寄付の床の軸は、微かに降る春雨に、花喰い鳥が蜜を吸った後か、桜花が蕾とともに落ちてゆく様を描いてありました。名古屋の大和絵画家、森村宜稲の「雨中之桜」。桜だよりも聞かないうちに、落花の図とは少し早いかなと思わないでもないのですが、しかし、境内の早咲きの桜木は蕾が膨らんで今にも咲きそう。なるほど、時候に叶ったプロローグです。
これを受けて、本席は江戸中後期の公家、西洞院時名の春山、春旅の和歌軸。竹花入は、近衛忠煕が「ながきよ」と銘名した置筒。土佐みずき、卜半椿、貝母の3種生け。
点前座まわりは、天猫の透木釜を軸に、真塗板に久田耕隆造の黄瀬戸水指、時代の小振りの唐金杓立に、久田宗全造の楽焼穂舎香炉(ほやごうろ)の蓋置。珍品の琉球塗の八角盆に、八事山に春がきたことを表現したような干菓子2種が取り合わせてあり、特に胡蝶の干菓子は開山忌には好適でした。
京都発祥の久田流らしく、都の雅と町方茶の侘びが程よく取り合わされ、「開山忌記念茶会」の格調をたたえているようでした。
ちなみに、透木釜は炉の終盤、3月あるいは4月に用いられる、羽根付が付いた平釜を言います。五徳を用いず、炉壇の両隅に木を渡してその上に釜をかけます。春暖の季節、お客さんに暑さを感じさせないように 炭火が見えないように考えられた釜です。春のたゆたう気分を醸す、釣り釜と共に、春満喫の茶席の風物詩です。
次回の興正寺月釜は4月15日(土)朝9時より、担当は武者小路千家の伊藤妙宣さん。興正寺席と合わせて2席、2,000円。