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如隠さん怒涛の"席主3連投"
ハイセンス冴えざえ
疲れ見せず木曜会炉開き

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 かつて、名古屋の町衆の家には、必ずと言っていいほど茶室があり、旦那衆は茶の湯をたしなんでいました。そんな茶どころ名古屋の遺風を受け継ぐ「現代の旦那衆茶人」長谷川如隠さんはこの秋、怒涛の"席主3連投"の大車輪の活躍を見せました。連投最後の登板となった2022年11月3日、名古屋・上飯田の料亭「志ら玉」の木曜会月釜では、「10月15日は興正寺、11月1日は吉祥会。1日おいて木曜会。まあ、よく道具があったもの」とさらりと苦労を語ったものの、渋さが冴え渡る黄伊羅保茶碗など吟味した道具揃えは変わらず。洒脱な旦那衆茶人の懐の深さ、お蔵の深さを見せつけました。

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 新型コロナウイルスの感染が小康になったのを受けて、木曜会の会場が2年半ぶりに、志ら玉2階広間から本来の1階茶席「菊の間」に戻されました。控えの間を含めて10数畳の菊の間は、広間席ながら天井が低く、床の間も狭めで、侘びの小間席を拡張したような趣を漂わせます。広々した書院然とした2階広間席とは異なり、侘びた趣向が似合う茶室です。

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 寄付は名古屋の茶会の定番、復古大和絵系の森村宜稲筆の「田家秋景図」。あっさりした水墨画に紅葉の朱が映えます。展観された香合はタイの古陶、宋胡禄(すんころく)。最小サイズの蓋もの「柿」です。宋胡禄は出土品がほとんどですが、本作は出土品に多い肌のかさつきも、釉肌を取り戻すための「二度焼き」の形跡もなく、肌はいかにも湿潤。レアな伝世品のようです。「思わずかわいい」と唸りたくなる、数寄者好みの香合です。

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 如隠さんは、名古屋都心部の商業ビルオーナーで、ビル最上階に茶席と道具蔵を所有する都会派茶人です。子どもの頃から風流韻事にふけり、常に着流し姿で道具屋通いをする「旦那衆」最後の生き残りともいうべき人物です。名古屋の代表的な月釜の常連席主ともなれば、何年かに一度は同じ時期に茶席担当が集中する試練もあるようで、如隠さんにとってこの秋は大当たり。半月余りのうちに、興正寺、吉祥会、木曜会の席主3連投と相なった次第。

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 とりわけ、中一日の連チャン月釜は、並の席主ならおそれを成して辞退するところ。そこを受けて立った如隠さん。その度量、お蔵の深さ。恐るべしです。
 本籍は表千家流ながら、流儀を超えた如隠流は縦横無尽。表千家好みはちょっぴり、遠州流、久田流など、自らの美意識、財布に適った道具を取り合わせて、茶数寄どっぷりの蓄積は一代にしてならずの境地です。

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 本席の床の間は、鎌倉初期の後京極良経筆の和歌小色紙。箱書きは尾張藩付家老で遠州流茶人の竹腰蓬月。武家茶の美意識が表装に宿る一幅です。2階広間席では映らない小色紙の軸を、小間席の雰囲気を漂わす「菊の間」再開第一席に掛けるあたり、如隠さんの茶略ははまりました。
 西王母椿の蕾に、すがれたハシバミを添えて、遠州流の茶人宗本作の輪無し二重切り竹花入に投げ入れ。

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 点前座は、侘びた中に格調。林良益旧蔵の「天龍寺 常住」の鋳込み銘入りの西村道爺造の日の丸釜がよく煮え、紹鴎袋を一回り縮小した溜塗風の棚に遠州高取の水指を載せて、バランスのいい取り合わせです。
 いつものように亭主自ら点前をしながら、豊富な茶道知識、経験を生かして正客と軽妙なやりとり。大寄せ茶会でお点前は代点で済ます席主がほとんどですが、如隠さんは正客、次客のお茶は必ず自分で点てる流儀を貫き、異彩を放っています。
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 点前も流儀を超越するかのように、あっという間に2碗の茶をたて終わり、仕舞い茶碗の段になっても、連客への点てだしの茶が追いつかない手際の良さです。茶碗は、糟谷家伝来という黄伊羅保、銘「山佐と(やまざと)」。茶味ひとしおの侘び茶碗です。楽焼の脇窯「玉水焼」初代の一元が、まだ分家する前の「楽」器銘がある黒楽茶碗は珍品。
 如隠さん家蔵の茶器には、尾張名古屋の茶道史に詳しくないと分からない「伝来品」があり、半可通には亭主の話がなかなか通じません。
 釜の旧蔵者・林良益とは、江戸後期の尾張藩奥医師を務めた茶人です。糟谷家とは、益田鈍翁を囲む名古屋の茶人グルー王「敬和会」同人の糟谷半醒子のことでしょうか。菓子は、川口屋製の道明寺もち。ずっしり持ち重りする天龍寺青磁の大鉢に盛り付け、中世に日中交易の天龍寺船を派遣した天龍寺銘入りの釜に付合します。

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 3連投ともなれば、さすがに会記の筆致、書き漏らしに疲れが見えましたが、茶趣は一段とハイセンス。荒れたり、粗略になったりせず、品質保証の如隠さんの炉開き釜でした。
 木曜会次回は12月8日(木)尾州久田流の下村宗隆さんです。当日券あり、2,000円。年会費15,000円です。