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圧巻! 名品づくし七夕茶会
ウロコヤ・横井一雄さん木曜会
国宝級名筆、珍品の遠州送筒、文房飾り‥

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 もろもろの「七夕茶会」を凌駕した、入魂の七夕の一会でした。七夕を詠んだ平安中期の名筆に始まる茶器の取り合わせは言うまでもなく、意趣卓越した脇床の文房飾り、涼感を添えた炭道具一式、煙草盆まで、至れり尽くせり。名古屋の主要美術商でつくる名古屋美術倶楽部を率いるウロコヤ・横井一雄さんが2022年7月7日、名古屋・上飯田の料亭志ら玉を例会場とする月釜「木曜会」に久々に登場し、圧巻の濃茶室礼で茶客を堪能させました。

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 寄付には、復古大和絵派の渡辺清筆の菅原道真図。なぜ、七夕茶会に菅公なのでしょう。7月7日に大宰府にて詠んだ歌「ひこ星の行き会いをまつかささぎの渡せる橋をわれにかさなむ」があります。これは、彦星と織姫が天の川に鵲の羽でつくった橋を架け、会う事が出来たという伝説に、讒訴により左遷された菅公が自身の境遇を重ねて「京の都に戻りたい」心境を訴えたとされます。

 この席主の凝った茶略が、床前に置かれた説明文によって明らかにされます。

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 寄付には、煙草盆、炭道具、茶杓のほかは茶器を飾らず、箱もごく絞ったシンプルな佇まいながら、一点一点が吟味された名品ばかり。

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 中でも、茶客を唸らせたのが、小堀遠州が加藤右馬允(うまのじょう)に贈った送り筒の茶杓です。

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 加藤右馬允正方は 江戸前期の武士、俳人。肥後熊本藩家老。加藤家のお家騒動で対立勢力を駆逐して実権をにぎるも、結局、肥後熊本藩はお取り潰しの憂き目に遭い、京都本圀(ほんこく)寺に隠棲。楓庵(風庵とも)を名乗り、俳諧談林派の西山宗因と親交しつつ、一方で相場で巨利を得るなど、風雅とともに権勢を追求した謎多き人物です。

 遠州の共筒ながら、箱書付は当代遠州宗家家元ですから、近年世に知られるようになった茶杓なのでしょうか。遠州らしい綺麗さびを体現した美杓です。

 さて、本席に入ると、おおらかな大粒の平安仮名の古筆切が目に飛び込んできました。平安中期の「十巻本歌合」断簡です。
「ちぎりけむ ここぞながき たなばたの きてはうちふす とこなつのはな」

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 近世以来「伝宗尊(むねたか)親王筆歌合巻」と呼ばれて鎌倉中期とみなされていましたが、その成立ははるかに古く、関白藤原頼通(よりみち)が主宰し源経信が監修した史上初の歌合証本集成事業であることが、1938(昭和13)年、近衛家文書の中からその総目録が発見。判明しました。一巻本であれば、国宝指定の古筆です。「七夕」限定のこの歌切に茶席で出合えた幸せをかみしめました。

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 すっきりした点前座に対して、脇床は瀟洒の極み。七夕にちなんだ文房飾りが珍しく、趣味性に富んだ亭主の心遣いが、隅々まで行き渡っていました。

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 次回木曜会は8月4日(木)、担当は茶道具商ながさか・永坂知足庵さんです。当日券2,000円。

 @sabiejapan.com