「初釜の湯気を味わう」
毎日新聞「旬感マンスリー」に掲載
有楽流拾穂園の新春釜
「茶室は総合芸術を味わう劇場空間のようだった」。
茶室「拾穂園」で先日あった初釜を、そう表現したのは名古屋発行の毎日新聞コラム「旬感マンスリー」(2022年1月21日付)です。
コラムを書いた山田泰生記者は昨年11月末、名古屋・八事山興正寺であった織田有楽斎没後400年記念「茶美会第1回大茶会」を取材。その御礼かたがた、山田記者を拾穂園の初釜にお誘いしたところ「茶の湯は門外漢ですが、お茶の空間に身を置くのは好きです」という返事があり、来園となった次第です。
お茶は、常に席中にある掛け軸、花、花入、釜などのほかは、菓子器、茶碗、茶杓、茶入、棗などの道登場しては役目を終えると退場してゆきます。さまざまな登場人物からなる群像劇にも似て、まさに「劇場空間」です。
さらに、茶事と呼ばれる茶の湯フルコースにおいては、前半、掛かっていた掛け軸は後半、外されて、床の間を飾るのは花、花入に。場面転換が図られます。一方で、前場、懐石の器として使われた向付などが、後に薄茶の茶碗などに転用されて登場することもあり、亭主の「働き」、お客の「所望」次第で、配役が変わることもあります。
茶の湯は静かに生動し、変化する一種の「時間芸術」と言えます。
初釜に際して、山田記者から点前をする手先を撮影したいという申し出がありました。茶の湯において、点前はもてなしの大切な要素です。たとえ室礼、道具が立派であっても、粗略な点前では楽しみが減じてしまします。
点前は、茶器を置き合わせて清め、茶を点てて、再び清めてしまう。茶室という狭い空間で営まれる呈茶の所作ながら、有楽流では「型」や「所作」と呼ばれる基本動作がつながって、序破急のリズムが構成されています。
型や所作には先人の深淵な自然観、人生哲学、祈り、武芸の型などが様々に込められています。同じ所作でも男性がすれば剛健に、女性がすれば優美になる。静と動が有機的に結び付いたものです。
拾穂園での初釜で、点前の美しさとともに、山田記者を魅了したのは釜の湯気だったようです。自然光で見る茶室の景色は陰影に富みます。三つの茶室からなる拾穂園でも、北向き、築山に面した広間席は格別、自然光に恵まれ、茶器が一段美しく見えるようです。広間席で行った濃茶席では、釜の蓋を開けた時にワッと上がる湯気を「ごちそう」にしようと、広口の釜を使い湯気を演出しました。茶席において亭主は脚本家であり演出家。普段はさして気にしない湯気すら、その風情を愛でる。五感が研ぎ澄まされるのがお茶です。
(撮影 中川高史)