初春寿ぐ聞香始・初釜
志野流松隠軒
ゆかしく「松竹梅香」
名古屋の初春の風物詩、香道志野流の聞香始(もんこうはじめ)と初釜が8日から11日まで、名古屋市西区の志野流家元「松隠軒」で開かれました。
20世家元蜂谷宗玄さんが香席・茶席席主、若宗匠が香席執筆を担当。名古屋はに引き続き2月過ぎまで、全国各地で家元の新年ご挨拶の聞香始の会が続きます。
初日の8日は各地の門人、香道関係者が参集。コロナ禍第6波が押し寄せ始めたため、「マスク聞香」「黙食」など感染症対策を徹底して、香席、茶席、点心席を楽しみました。
今年は正月吉例の組香「松竹梅香」。志野流15世宗意の香道の楽しみ方を和漢朗詠した懐紙が床に掛かり、唐物香炉卓に井戸香炉を飾った席は、2間20畳をぶち抜きにしたコロナ禍仕様です。広々した席に客15人が着座して、微妙に香りが異なる3種の沈水香木を聞き分けました。
全問当てて「叶(かなう)」の評点で手書きの「香記」を贈られた愛知県一宮市の濱口花世音さんは「初めて体験した聞香始で、まさかのご褒美。今年は縁起のいい年になりそう」と喜んでいました。濱口さんは福引でも家元直筆の短冊「虎嘯」を引き当て、強運でした。
香・茶席の寄付には、狩野探幽斎の富士山図が掛けられ、床前の三宝には熨斗鮑やスルメなど伊勢神宮の新年供物と同じ縁起ものが飾られ、厳かな中にも新春の気が満ちます。茶入は、恒例の伊達家伝来の古瀬戸肩衝・銘「初春」。干支にちなんだ15世閑斎宗意の共筒・箱の2本入り「龍虎」茶杓が目をひきます。龍の茶杓は、龍がうねるような3つ節が印象的です。虎の茶杓は「乕(とら)」の字形に似た造形から名づけられたのでしょうか。
茶席の床映りは出色です。数寄大名松平不昧公の懐紙「枩 常磐なる松乃緑も春くれば今一しほの色まさりけり」の軸に、不昧公の所領があった島根・大根島の寒牡丹を、青磁竹節耳付下蕪の花入に投げ入れ。香合は、縁起のいい古染付分銅型。めでたくも格調高い取り合わせです。
道具畳の茶器はほぼ例年通りで、古染付砂金袋型の水指、釜は西村道仁の甑口釜、春正の雲鶴文蒔絵の雪吹茶器。尾張徳川家江戸藩邸お庭焼「楽々園焼」の蓋置は、しめ縄飾り様の陽刻が施された珍品でした。
主茶碗は、蜂谷家初釜の定番となった伊勢暦文様の志野茶碗。副茶碗は熊川(こまがい)、注連縄文入りの高松焼、古唐津など。茶器に造詣が深い宗玄家元の選んだ名碗が並び、客を楽しませました。
このレポートを書いている拾穂園主にとって、嬉しかったのは、香合をのせた出し帛紗でした。先年、拾穂園の茶席披露の茶事に蜂谷家元夫妻をお招きした折、来園お礼に贈った「拾穂園裂」です。古渡りのインド更紗の中でも更紗初期の手描き染色の超レア品で、拾穂園の広間席の襖張りに使った余りを出し帛紗に仕立てたものです。宗匠は「あなたが今年も来るだろうと思って、使いました」。目の高い宗匠のおメガネにかなった拾穂園裂。茶道具は使われてこそ。何枚か仕立てた拾穂園裂が手元を離れた後、どこでどう使われているのか。芸道において、道具の贈答は心を繋ぐ意味合いがあります。