見る・遊ぶ

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清須宿ご旧家の心意気
表千家 櫛田有紀子さん金城茶会
「何茶伝茶人」大盤振る舞い

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 茶どころ名古屋の次代を担う精鋭が席主を務める金城茶会が2021年12月5日、名古屋城茶席「書院席」で開かれ、表千家の櫛田有紀子さんが、名古屋の月釜で席主デビューし、篤いもてなしの茶で茶客を喜ばせました。 

 
江戸時代に東海道・宮宿(名古屋・熱田)と中山道・垂井宿とを結んだ脇往還、美濃路。前回7月に金城茶会で席主デビューした裏千家柴田祐介さんの生家は名古屋市の西北部、清須市西枇杷島町の美濃路沿いにあり、この道を西北に進むと櫛田さんの屋敷がある美濃路清洲宿に到ります。

 櫛田家は代々脇本陣を務めた旧家。有紀子さんの夫、14代当主の利久さんは茶人・千利休を連想させる名前をもじって「何茶伝(なんちゃって)茶人」を自称。「櫛田家の初代は博多・櫛田神社の神官の七男で、豊臣秀吉の朝鮮の役に従い、その縁で清須に定住し、脇本陣を務めました」と教えてくれました。遊び心あふれる「何茶伝茶人」の名刺には、櫛田家に伝わる織田信長の「武人たる者、茶と花を‥‥人の心を大事にせよ!」の遺訓が刷り込んであり、信長の居城清洲城があり、室町時代後期から江戸初期に尾張の政治的中心地だった尾張の古都・清須の誇りが滲み出ています。

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 さて、本席次の間6畳の寄付は、道具飾りがないごくスッキリした室礼がむしろ新鮮。菩提寺の来迎寺住職による「無」一字の扇面の前に、根来塗の脚付き盆に水をたたえ、そこに白い花を付けた柊が2もと投げ入れてありました。根来の朱に、緑の柊の葉が映え、降りかかった霰のような白い可憐な花が、冬の訪れを感じさせます。

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 案内があって、本席の書院12畳に進むと、床の間は大徳寺大亀和尚の横一行「一期一会」に、時代の尺八竹花入に清楚な2輪咲きの椿が投げ入れてありました。椿は中京椿を代表する一つ「千羽鶴」。上向き加減に咲いて、ほのかなピンク色が何とも言え ない気品があります。

 「無」から生じた人の縁、一期一会のこの席に込めたご夫婦の万感の思いが伝わってきます。

有紀子さんは「屋敷で200種の茶花を育てますが、椿園の中で咲き出した千羽鶴が、金城茶会に連れて行ってと呼びかけていました」と微笑みます。

IMG_4421.jpgIMG_4415.JPG 江戸時代に名字帯刀を許された櫛田家。その蔵に眠っていた名古屋城お庭焼の水指が披露されました。江戸後期の柳生新陰流の剣豪にして有楽流茶人、作陶家でもあった尾張藩士、子日(ねのひ)庵今泉源内の手造りの水指です。子日庵の茶碗や茶杓はたまに見かけますが、水指は初めて拝見しました。

 書付によると、串田家当主の依頼に応えて子日庵が作ったとのこと。塗蓋の裏には、徳川家紋の三つ葉葵の朱漆があり、武家と町方の茶の湯交遊が偲ばれ、金城茶会にぴったりです。

 主菓子が箱ごと運ばれてきて、驚きました。開けると、さらにびっくりです。川村屋の銘「小春日和」と「柚子香」の2種入り。連客と分けていただくのかと思いきや。「お二つ、どうぞ」

 
コロナ禍が小康にあるとはいえ、茶会において「非接触」を何より重視したといいます。その一方で、茶の縁、人の縁を大切にする思いは、糸目のある釜や茶器、結び文の香合などに託されておりました。

 床の間の2輪咲き以上に、席中に大輪の花を咲かせたのは、華やかな振袖姿のお弟子さんの笑顔でした。帰りがけ「ちょっと用意したものがあります」と席主。待つほどしばし、京都の茶舗一保堂の紙袋が目の前に。「今日は皆さんを招待しました。これで用意した手土産はおしまいになりました。どうぞ、お持ち帰りください」


 家に戻って、開封すると、なんと「大福茶」の缶入り。一年の邪気を払い、新年をお祝いする縁起物のお茶です。縁を結ぶ糸目のある茶器は用いても、おもてなしには金に糸目を付けない⁈ 櫛田家流。お道具持ちの名品茶会とはまた違う、なんともほっこり心温まるお席でした。

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 金城茶会事務局の岡江智子さんは「ベテランはもちろん、大寄せ茶会デビューの場として、名古屋の茶道を盛り上げたい」と言います。寒さの厳しい1、2月はお休み。2022年は3月6日、石州流高橋美佐子さんが席主を務めます。当日券も発売する予定です。この日も、お城見物の観光客がふらっと立ち寄る気楽さが、金城茶会の良さでしょう。 

 金城茶会は2019年度に始まった和文化体験の「春姫茶会」を前身とし、昨年度はコロナ禍で休止。模様替えして始めた2021年度は第1回の5月2日は同茶会世話人の表千家岡江さんが担当。緊急事態宣言下にあった6月6日、9月5日は中止となりましたが、7月の例会、10月の別会「第1回三英傑茶会」を成功させました。問い合わせは、金城茶会(岡江)=電090(4490)8427