茶道美術展さながら
豊国神社月釜で濃茶の続き薄
「葉月会」柴山利弥氏が気張る
名古屋・豊国神社献茶会の月釜は2021年11月21日、名古屋・中村公園内の公共茶室で開かれ、老舗の茶道愛好団体「葉月会」を代表して、笑庵柴山利弥氏が席主を務め、ゆく秋の残照と初冬の風情を、濃茶に続いて薄茶を振る舞う「濃茶の続き薄」で、大勢の茶客をもてなしました。
名古屋地区の遠州流の重鎮数寄者が「綺麗さび」を体現した侘びながらも品位高い取り合わせです。
通常は薄茶2席がかかる豊国神社献茶会ですが、初釜と開炉などは"一席ニ茶"。一度に2席分の茶趣が味わえる趣向です。
この日は、常に使う広間席「桐蔭」を寄付・展観席とし、ここに濃茶、薄茶、炭道具、煙草盆を全て飾りました。
障子を二方開け放った広間に、左右に道具展観席がある真ん中を、客は一方通行で折り返して、数々の名器、珍器を拝見する合理的な席使い。コロナ禍が収束気味になったとはいえ、換気、通風図るアイデアです。
手練れの席主は、会記に皆まで書かず、席中の説明で補足するやり方が、なんとも茶人らしい懐の深さ。かい先がくっきり、内に力感を秘めた薄作の小堀権十郎の美杓。小兵ながら茶情豊かな芋の子茶入、銘「埜寺」。益田鈍翁旧蔵。会記には記載がありませんでしたが、記憶では遠州流の茶人縣宗知の書付があった茶入ではないでしょうか。
主茶碗は濃茶は御本三島、薄茶は御本弥平太。御本弥平太は綺麗さびを象徴する高麗茶碗で、見どころの食い違いのあたりに、瀟洒な菊の絵があり、洒落た逸品でした。
炭道具では、釜鐶が珍品でした。太閤好みの「水口煙管」で知られる吉久作。彫り銘入りの「夫婦鐶」です。南蛮内渋の灰器は時代のものの作意を汲み取って、作陶家でもある席主が焼いた自作と見ました。あえて、会記に自作と書かず、席中で尋ねても、シラーっと話題を避けるあたり、亭主が客をけむに巻く茶の湯問答の妙味です。
お道具好きにはたまらない、手にとって珍器を鑑賞できる茶道美術展さながらのラインナップでした。
本席は、庭を挟んで隣に立つ大正天皇ゆかりの記念館。待合に月渓こと松村呉春の時雨の短冊をかけて、床前には大名たちが愛しただろうルソンの真壺。会記にはない、ご馳走です。ルソンとしては釉雪崩が珍しく、時代の飾り紐が、真行草の組紐飾り以前の壺飾りの古態を示しているかの様です。
さて、本席床の間には、江戸前期の有楽流茶人・土岐ニ三の82歳筆の一行「太平楽」。高齢になっても枯れない茶人パワーの書です。堅田幽庵作の竹一重切花入に、ハシバミと白玉椿が、映えます。
点前座は、渡辺清筆の金箔地に菊を描いた戸袋を、風炉先に仕立てたもの。その前に、古備前耳付の水指。銘「筏士」の名の通り、筏乗りが小首を傾げて流れに竿をさす風情に因んで命銘したのでしょう。なんとも茶味、愛嬌のある水指です。
記念館は、近年の改修後は炉は高さが調節できない電熱式。徳川宗春所持の大蓋の釜が、炉縁からせりだすように出てしまい、ここは玉に瑕の取り合せでした。竹挽切の蓋置は異形の大きさ、久保長闇堂の在判。
お菓子は、主菓子、干菓子とも名古屋の茶席を賑わす川口屋製。見た目も麗しく、出来立ての干菓子はしっとり、やわらかく格別美味でした。
席入りした際のお点前は宗徧流でした。濃茶はきっちりお点前されましたが、濃茶が済んで、水屋にさがってしまって、続き薄の点前はなし。薄茶は全て点て出しで、点前座は無人。続き薄なら点前も続いてして欲しいところです。なかなか、他流の続き薄のお点前を拝見する機会はありません。点前は、おもてなしの大切な要素だと思います。
それにしても、一席あたり18人の客。コロナ禍以前のぎゅう詰めに戻ったようで、ちょっと驚きました。活気が出るのはいいですが、本席も感染症対策との両立が求められるところです。
次回は12月19日。当日券あり。