一器・一花・一菓
〜破傘と染付高砂手〜
花いらずボロ傘に茶味
萎むムクゲ 延命の禁じ手
残念なほど花がパッとしない茶花があります。破傘(やぶれがさ)。名は体を表す、葉っぱがオンボロ傘風。数年前、山野草を扱う店で、茶味のある名前に惹かれて鉢植えを求めました。床の間にボロ傘をさす姿になるまで育てようと、切り花をぐっと我慢。地植えしてから2シーズン目。先日開いた拾穂園四季の茶の湯で、投げ入れてみました。やっと茶席デビューを果たしました。
破傘にあっては、花は添え物。咲いたら、むしろ逆効果。まったく魅力を減じてしまうので、なんとか見られる蕾のうちが、茶花に使うチャンスです。
降れば大雨、照れば猛暑のこの頃の梅雨。茶会当日は雨模様で、破傘にはももってこいのお茶日和でした。花入は染付高砂手の写しです。本歌はいわゆる鯉耳。明時代末、日本からの注文を受けて中国景徳鎮の民窯で作られたもの。高砂の名は、コバルトで描かれた男女を謡曲「高砂」の尉と姥(おじいさんとおばあさん)、水草を相生の松に見立てたことによります。枯淡で飄逸な茶味があり、古染付の本歌が近年、古美術マーケットに登場したところ、びっくりの超高値が付いたそうです。
写しが数多く作られていますが、拾穂園蔵は、江戸時代後期、改めて景徳鎮に注文して渡来した、「新渡(しんと)」とみられます。
朝開き暮に落つる朱槿を主題にした掛け軸の詩歌に呼応して、底紅のムクゲを添えました。午前に生けたムクゲは昼過ぎにはみるみる萎みます。それを見越して、禁じ手を使いました(笑)。お花屋さんばりに冷蔵庫を活用。前日夕方、翌朝咲くばかりに膨らんだ蕾を選んで切り花し、冷蔵して開花調節してみました。午前十時ごろ、真っ暗な冷蔵の蔵から外に持ち出されたムクゲは、夜明けと勘違いして、徐々に咲き出し、午後の席入りころ、ちょうど半開き。早起きのお目々ぱっちりとは一味違う、昼下がり、いまだ眠たげな底紅の花のかんばせを拝むことができました。