天翔け地を踏む圧巻の舞
加藤おりは 雅楽競演
「橦木館舞初め」大盛況
「福招く古式の舞初め 五十鈴たたら舞」が2024年1月6日、名古屋市東区橦木町の文化のみち橦木館でありました。五十鈴たたら舞主宰の舞踊家加藤おりはさんは、雅楽の笙(しょう)の名手伊藤えりさんと初共演し、笙が奏でる天界の響きに共振。天翔る天女が地に舞い降り、たたら踏んで大きく躍動。地中の邪気を祓い、善神を呼び覚ます、鎮魔・招福の舞を繰り広げました。
五十鈴たたら舞は、奈良・天河代弁財天に伝わった古式舞踊。明治期に廃絶したのを惜しみ、復興されたもので、加藤さんはその後継者。加藤さんの代になって、神社などへの奉納舞だけでなく、舞台にも進出。この日のライブは、厳かで清新な舞で、新年の幕開けを祝してもらおうと企画されました。
和室4室をぶち抜いた和館が会場。手入れが行き届いた庭園を背景に、たたら舞門下生たちが、丸山太郎さんの打楽器や「ひふみ祝詞」の歌唱、雅楽伝統の楽人装束に身を包んだ伊藤さんの笙にのせて、変化に飛んだ古式舞を披露しました。
笙の響きは、西洋音楽の耳で聴けば「不協和音」。しかし、耳を切り替えて古代から続く和音の世界に遊べば、天界から降り注ぐ光のよう。神々しく、雅やかさがあり、時にパイプオルガンのような力強い和音が、時に弱音であっても密度の濃い響きが、会場を満たします。
和音の高音部で玲瓏たる鈴が鳴っているように感じたのは、わたしだけでしょうか。雅楽合奏の笙は複数の音が折り重なってグシャっとなって聞こえがちですが、伊藤さんの笙は、一つひとつの音がくっきり筋状になって竹の管から放射され、音の粒立ちが格別です。名手による笙独奏の妙味を味わうことができました。
天界の響きにインスパイアーされ、加藤さんの五十鈴たたら舞は、新境地を見せました。
前半は、天空を舞う天女の如く。緩やかでたおやかな美しい舞を見せます。舞と笙が即興的に掛け合い、そこに打楽器が加わって、三者初共演とは思えない調和を見せます。
天女の舞が済んで、床の間の三宝に祀った五十鈴一対をおしいただいて、両手に掲げると、神霊が降臨したよう。緩急よろしく、五十鈴を打ち振るいながら、大きく躍動。「地踏み」「地固め」の呪師芸の如く、地を踏み鳴らし、跳躍。凄絶な回転技、全身を使った二重螺旋状のスピンが最高潮に達した後は、潮が引いたように静けさが戻って、舞は終わりました。圧巻でした。
午前、午後の2回公演とも大盛況でした。ライブ後の「ミニ体験会」も会場に入りきらないほどの参加がありました。同館の正月特別企画とはいえ、観覧・体験会とも無料とは驚きです。
記事 WEB茶美会編集長 長谷義隆
写真 K.yamada