一器・一花・一菓
〜響き合う照り葉、黄と緑の石蕗〜
蝋色丸板に美濃鉄釉の舟徳利
色彩と形状の和音奏でる
薄板で印象がらり
お茶の稽古のたび、とりわけ茶花には心を砕きます。前回の稽古前日に用意したのは、白と薄紅まじりの色違いの山茶花(さざんか)2種と、枯れて花の葉脈だけ先端に残しつつ緑の葉が萌え出た紫陽花の枝。冬枯れと冬の花がけっこう釣り合っているな、明日の稽古はこれで決まり。寒い時期だから一晩くらい花は持つだろうと思っていたら、翌朝、茶席を開けたら、蕾だった山茶花は開花し、紫陽花の枝もしおれ気味。
これではいかん。庭からみつくろってきたのが、石蕗(つわぶき)と、このところの冷え込みで真っ赤に染まった灯台躑躅(どうだんつつじ)の照り葉です。
花入は、美濃古窯を代表する大平窯の鉄釉徳利です。美濃焼には珍しい、舟徳利(ふなどっくり)形の花入です。少々船が揺れても酒がこぼれない、底が大きい徳利。 海運、舟運が盛んな地方にある備前焼にはよくありますが、内陸の美濃焼では珍しいものです。口から胴にかけてのラインが美しく、飴色の釉薬が流れて、なかにマットな黄土色あり、透き通ったと黄釉あり、釉薬の掛け外しあり。千変万化の景色です。桃山時代の美濃焼の鉄釉茶入とよく似た釉調です。胎土に泥漿を塗っています。
箱書によると、大平窯跡からの出土品で、なるほど口縁と高台にいくつか欠けがあり、肌に一部カセも見られますが、発掘のものとしては奇跡的に疵が少ないといえるでしょう。時代は桃山時代から江戸初期のようです。
花入の下に敷く薄板は最初は、木地が透けて見える溜塗調の角蛤端(はまぐりば)に載せていましたが、花を石蕗と照り葉に変えると、花映りがいまいち。蝋色(ろいろ)塗の丸蛤端に変えて見ました。鏡面のように塗の表面を磨き上げた蝋色塗の漆黒に、鮮やかな色の対比が映え、さらに丸板の丸、徳利の円、石蕗の葉の丸が響きあって、色彩と形状の和音を奏でているようです。
薄板を取り替えるだけでも、ずいぶん印象が変わるのに、驚きました。