味わう

味わう

一器・一花・一菓
〜唯一無二へうげもの水指〜
ひずみの美 朝鮮唐津
うねる脱俗のかろみ

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 「織部焼」「織部様式」をテーマに先日催した拾穂園の炉開き茶会。小間据えした点前座を拝見した茶客から、驚きのため息が漏れました。
一見、窯の中でへたったように見せて、実は大胆に歪ませた朝鮮唐津のへうげもの水指。剽軽(ひょうきん)でとぼけたようでいて、やりすぎの一歩手前で踏みとどまる、確固たる美意識。むしろ脱俗のかろみすら感じられます。
 ひずみの美を追求した織部好みが強烈に注入。丁寧に叩きづくりでダンベル状にした器形を、ためらいなく前のめりに押しつぶす。その豪快な作為。朝鮮唐津の水指は一重口の銘「盧瀑」や種壺が、茶湯の世界では古来やかましいのですが、大ひずみは伝世品はほかに知られていません。桃山時代の作では、唯一無二といっていい珍品でしょう。

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 秀吉が朝鮮出兵のために築城した肥前名護屋城跡を訪れたおり、古田織部が在陣した陣跡を巡りました。織部と唐津焼の関係に想像を馳せたのですが、その関係がいかに深かったのか。時がたって手に入れた本作を見ると、注文者の指導なくして、陶工が為せる技とは思えないのです。このへうげものを通して、織部が求めたものがありありと伝わってきます。

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 口より腰にかけて飴釉をかけた上に、口から肩にかけてムラムラと白濁する藁灰釉。白濁の釉の下から青い炎がちろちろ燃えるような釉景。それが、飴釉の中に垂れ込んで、白、青、褐色が入り混じる変化に富んだ景色をつくっています。
表面は高温の炎に焼かれて全体に細かい泡つぶが生じ、いわゆる柚肌(ゆずはだ)で覆われています。火割れ、ひっつき跡、細かなブクが随所にあり、どこまで作為なのか、土と炎のなせる成り行きなのか、判然としません。
腰周りを広く、いったん胴体せめて立ち上がらせ、さらに口帯をひろげて、ダンベル状にして長方形の耳が左右に付く。胴体はろくろ仕上げになっていて、細かな十数条の線状痕が巡ります。口づくりは精妙です。玉縁のように微かに立ち上がった口の内側は、見事な樋口(といぐち)となって、塗蓋を受け止める。小判形の口は斜め右に振られており、器は屈伸しつつ、ねじれてうねる、ユーモラスな破調。

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 底は中央が僅かに窪んだ板起し、もみ殻高台。焼成時に窯と器がくっつかないように高台下にもみ殻をひくことででき、多数のもみ殻跡があります。内部は叩き作りで成形され、青海波状の叩文が残っています。
箱の極め書きによるまでもなく、窯は唐津焼の古窯、藤ノ川内窯。16世紀末から17世紀初めに操業し、朝鮮唐津の名品を焼いた窯です。古唐津では珍しく、焼成時の窯傷を除けば、後できの傷一つない伝世品です。