味わう

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茶どころ名物男3人を追善
名古屋・木曜会長月釜
万端格調高くも

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 半世紀近く名古屋の茶道界を牽引して昨年相次ぎ物故した茶どころ名物男3人。互いに親しい茶友であった亀井猛、下村瑞晃、伊藤宗観の3氏を追善する茶会が、2023年9月7日、名古屋市北区の料亭志ら玉で開かれた木曜会長月釜でありました。

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 遺影を飾った祭壇に向けて、3人の知友だった黄檗宗の高僧、芹沢保道師が朝一番で読経。さんさんごご訪れた茶客たちが、遺影に手を合わせて焼香するなど、故人3氏の遺徳を偲びました。

 席主は同店主人、茶人、陶芸家として活動する柴山利彌さん。席主、物故者とも茶事グループ「笑和会」(解散)の仲間です。長年、公私とも親しく交友した亡き"戦友"への、手向けの一会です。


 古経切の最高峰「大聖武」5行を本席に掛けるなど、諸事遺漏なく、万端格調高い取り合わせでした。ただ、追憶、追善の気持ちが言葉や態度に出ていない様に感じられ、追善茶会の質実が伴っていない危惧を抱いたのは、私だけでしょうか。


 3氏は、昨年1月に満82歳で他界した数奇者の亀井猛さん。同じく3月に満91歳で長逝した尾州久田流の前家元、下村瑞晃さん。同じく9月に満88歳で死去した裏千家業躰(ぎょうてい)の伊藤宗観さん。


 3氏の手造り茶碗、赤楽、黒楽、唐津風の3碗が寄付の森村宜稲筆の白衣観音図の前に、飾られ、その茶境を偲びました。このうち、亀井翁の赤楽は光悦の「乙御前」を意識した作行き。金工家でもあった翁の造形感覚の鋭さを表しているようで、出色でした。

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 展観道具は、遠州流の綺麗数寄好みの席主の趣味が表れた寂び道具がずらり。茶杓は、江戸前期の禅僧の僖首座(きしゅそ)の作。臨済宗(りんざいしゅう)京都竜安寺の塔頭(たっちゅう)大珠院の住職で、千宗旦(そうたん)の門人で、茶杓づくりの名手とし知られた茶人です。中節と下節の間の竹が枯れたり、ひねたりして危うい景色をなす珍品です。

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 主茶碗は、信友(しなとも=信濃屋近藤友右衛門)、中村貫之助、さらに亀井翁と名古屋の数寄者の間を転々とした朝鮮半島産茶碗です。会記では「古手屋高麗」としてありましたが、口縁4箇所を摘んだように変形させた、風変わりな御本茶碗ではないかと拝見しました。遠州好みなのでしょうか、小洒落た作為と御本の斑紋が相まって、一度見たら忘れられない個性的な碗です。まわり回って、柴山さんの収蔵になったのもご縁でしょう。
炭道具一式は、全て小ぶりの寂び道具。灰器の代わりに、三島の平茶碗を代用したエスプリ。蓮の実釜敷が仏事の趣向を添えていました。

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 本席の床は、大聖武の軸前に、高麗製の角ばった経筒に蓮の葉と実を投げ入れ。大聖武ならではの大粒の写経文字が雄渾。悠久の歴史を経た天平経とは思えない保存状態の良さでした。

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 点前座は、遠州好みのシャープな造形の土風炉に芦屋の八景釜。水指は南蛮縄簾。絵に描いた様な名作です。自家製の蓮根餅も冷やして美味でした。席主はいつもと変わらない飄々とした様子。正客が「もう一つ食べたいくらい美味しい」と褒めると、「注文はいくらでも受けます」と、料亭主らしい商売っけたっぷりの受け答え。
 惜しいことに、3氏を偲ぶエピソードはついに語られずじまい。わずかに、「古手屋高麗」は「亀ちゃんが一番大切にした茶碗が、私のところに来た」と語りました。しかし、亀井翁はこの茶碗について飽きたのか、次の道具に乗り換える金策のためか、かなり前に手放したのか。席主が模作して翁に贈った御本写し茶碗すら、未練なく手放しています。
 追善の気持ちは取り合わせた道具に語らせればよろしい、という含みなのでしょう。物故者に寄り添う様な一言がほしい、という気持ちを抱いて、席を後にしました。

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