一器・一花・一菓
冷茶を乾隆ガラス碗で
ガレも魅了 清朝の美
精緻な技巧、耐熱性あり堅牢
氷水で冷やした名水で点てるお抹茶、冷茶がことのほか美味しく感じられるこの夏。冷茶では、常より濃い目、抹茶も濃茶級の上等を使うと、美味しいようです。
拾穂園夏場の茶会では、冷茶が好評です。冷茶席では、乾隆(けんりゅう)ガラスを使いました。
先日開いた四季の茶の湯では、寄付の汲み出しを、薄めた昆布茶を冷やして、たっぷりとしたガラスコップに入れて出しました。道中の渇を癒してもらおうとの気配りです。
初座ではもちろん、温かいお抹茶を点てました。席替えした後座では点前も軽やかな茶箱に切り替え、盆点てで冷茶を振舞いました。席はエアコンが効いているとはいえ、冷茶の味わいはひとしおです。
乾隆ガラスは、中国清代のガラス製品の総称を言います。家蔵の碗は、青海波に似た波模様のある半失透のガラス素地の上に、黒色ガラスを被せ、重ねたガラス層を削って、蓮池に群れ飛ぶ水鳥、風に揺れる柳の枝などの立体的な模様を彫り出してあります。さらに素地には細かい金箔が溶け込んでおり、何層にもわたり精緻な技巧が凝らされております。色違いの乾隆ガラス碗もありますが、いずれも驚くことに耐熱性があり、熱湯で点てても大丈夫です。
かのフランス・アール・ヌーヴォー期の芸術家エミール・ガレ(1846-1904)は、乾隆ガラスに魅了され、インスピレーションを受けたと言われますが、耐熱性もあって用の美を備えた乾隆ガラス碗は、日本の茶の湯でもっと注目されていいと思います。
特に夏が長くなった現代ではいざという時に重宝しますが、管見では遺品はそう多くないようです。
近年では2018年に東京・サントリー美術館で開かれた「ガレも愛した-清朝皇帝のガラス」が、乾隆ガラスを特集した数少ない展覧会でした。わたしも見に行きましたが、家蔵と同種の技法で作られたのは「雪片地紅被騎馬人物文瓶」などごくわずかでした。茶席で映りそうな碗は、ほとんど見当たりませんでした。茶席に出すたび、お客さまが興味津々なのもうなずけます。
類品が少ない珍品なのでしょう。