一器・一花・一菓
脇床高く浮かぶ蓮の花
喚鐘釘に吊って夕月の風情
鸚鵡貝釣舟を月に見立て
先日開いた拾穂園四季の茶の湯では、「ゆふ月」という銘を付けた、幕末・明治期に生きた名古屋の茶人、隠士閑哉の手造りの茶杓などに関連して、茶室に初秋風情を呼ぶ夕月の花を咲かせたいと思い立ちました。
通例なら床の間の軸に添えて花を投げ入れるところ、それでは、ありきたり。この度は面白からず。
そこで、軸との映りを考えなくてもよく、より高さが稼げ、客座から見上げる高さの脇床の喚鐘釘に鎖を吊るして花入を浮かべ、茶花を入れることにしました。釣り花入から、花を付けた蔓を水流のように滴らしたりも一興かも、などと幾つか試してみた結果、最も不思議な浮遊感を感じたのが、蓮の花でした。
泥を吸って高貴な香りを放つ蓮の花。天上界の蓮華を想起させるのも好ましく、鸚鵡(オウム)貝の釣舟に、蓮の葉とともに投げ入れてみました。
板床の初座小間席から後座広間席へ移った茶客から、ため息と歓声が上がるのが、襖越しに聞こえました。初座と後座では花の高さは人の背ほどの違いがあり、その落差が驚きを生みます。実は、入手はもとより、水揚げに難儀する蓮の花と葉。生け花に詳しい正客から「蓮の花と葉は、本当に水揚げが難しいのすが、よくぞ‥‥」と褒め言葉が掛かりました。亭主冥利に尽きる瞬間です。
花入は、生きている化石といわれているオウム貝に、南鐐の金具と鎖を加工し釣舟に仕立てたものです。オウム貝は縞柄があるものが多いのですが、この花入は真珠貝のような天然のパールのような光沢。独自の好み道具、好み表具を創意した名古屋の某数寄茶人が作ったものです。拾穂園主の駆け出し時代、可愛がってくれた某数寄茶人。その手離した茶器が、縁あって拾穂園に到来。先年、某氏を席完成披露の茶事にお招きして、この花入を披露したところ、ことのほか喜んでくれました。上機嫌に乗じて箱書きを求めたところ、珍しく筆を取ってに「平成最後の春に‥‥」と応じてくれた思い出の品です。