一器・一花・一菓
魚籠を見立ての花入に
たっぷり濡らして
水に浸けてたっぷり濡らした竹籠を引き上げて、滴をぬぐって、床の間に置いた魚籠。濡れた竹ひごが見るまに乾いてゆく様も、涼を呼びます。
魚籠にちなんで、鮎を描いた大うちわを床の中釘に掛けて。暑い時季の床飾りは、あっさり専一。簡素な中に、ちょっとエスプリの香辛料を振り掛けてみます。
この魚籠は、岐阜県東濃地方の城下町散策の折、ふと立ち寄った竹細工店で見つけました。鮎釣り漁をする清流の地。釣った香魚を入れるための漁具ですが、ザングリとし編んだ竹も好ましく、形もてらいがありません。地元では単なる雑器の一つ。とてもリーズナブルな値段で売られていました。首のところに麻紐をまわして、アクセントとし、置いてよし、掛けてよし。風炉の間、時々出しては花を楽しんでいます。
茶道の世界では「見立て」が盛んに行われてきました。魚籠由来の花入では、千利休が桂川の漁師が腰に提げていた魚籠を花入に見立てた桂籠が有名です。木樵の使う鉈をおさめる「鉈鞘籠」も見立てです。
自分の目で選び取った雑器を茶器に見立てて、愛でる楽しみは、専門店で求める茶器とは一味違う、お茶の喜びがあります。センスが問われます。