味わう

味わう

一器・一花・一菓
目に青葉『初かつを』
古備前の手付け鉢に

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 目には青葉山ほととぎす初鰹。目にまぶしい青葉、美しい鳴き声の時鳥、食べておいしい初鰹。春から夏にかけ、江戸の人々が最も好んだものを詠んだ俳句です。この時期、茶どころ名古屋では、赤みのお刺身そっくりの和菓子が出回ります。

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 「目に青葉の季節は、一度は初かつをを頂かないとね。うーん、冷えていて、もちっとして美味しいわ」。そんな声が、茶席の襖越しに聞こえてきました。
名古屋の老舗の美濃忠製の『初かつを』を、拾穂園で開いた茶会に出しました。茶会では日持ちのする棹物はあまり喜ばれませんが、初かつをは例外です。

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 淡い桃色と繊細な縞模様が美しく、みずみずしく、もちっとした食感、上品な控えめの甘さ。賞味期間も短く、値段も鮮度も生菓子並みです。以前は、10人分はあるひと棹ごとの販売で、ちょっと食べあぐねましたが、近頃は半棹も売っていて、使いやすくなりました。
 切り分けるときは袋に入っている糸を二重にして撚って、それで切ります。すると切り口にも切り身の模様が出て、風流さがいやまします。

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 古備前の手付鉢に盛り付けてみました。器全体に胡麻がたっぷり降り、重ね焼きの痕は灰がかからず地肌が見えます。いわゆる「牡丹餅(ぼたもち)」もくっきり。変化に富んだ桟切(さんぎり)も出て、見どころ多い鉢です。力強いヘラどり、器も手付も歪ませて、作為に富みます。

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 明け方は聞こえたほととぎすは、茶会があった日中は残念ながら鳴かず、飛ばず。古備前に目に青葉の若紅葉を敷いて、供した茶菓子。ほととぎすの声こそ聞こえませんでしたが、お客様から歓声が、漏れました。亭主冥利の"客ほととぎ"です。吊り釜がゆらり、ゆらり。陽春の気分が横溢しました。

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