一器・一花・一菓
剛毅な気迫 伊賀伽藍石
「形物香合」の頭取筆頭
火色に映えるビードロ釉
大胆に鋭く斜めにヘラを二筋切り入れた伽藍石(がらんせき)香合。蓋上には胎土から吹き出たビードロ釉がたまり、灼熱に焼かれた火色の肌に映ります。片手ですっぽり包める小さな器。それが放つ、剛毅な気迫。ただものではありません。
伊賀伽藍石は寺院の大伽藍を支える礎石を模したもの。「形物香合番付」を見ると、頭取筆頭です。志野宝珠、黄瀬戸根太など桃山時代の国焼香合を従えて、最高位に位置します。
古来、有名。実は桃山時代の古作はまれです。江戸時代後期の大名茶人松平不昧が所持して現在、東京国立博物館が所蔵する香合が有名です。幾度も見ました。茶器の辞典、図録では、必ずと言っていいほど出ます。
なぜ、東博館蔵品オンリーなのか。ネットで調べると、本当に数少ないんですね。福岡市美術館や秋田・本間美術館の所蔵品がヒットしますが、画像で見る限り、残念ながら時代が下ったもののようです。
たまに茶会や茶器売り出しで見かける伊賀伽藍石も、伊賀焼が衰退する江戸中期以降のもの。調べるほど、古作の伊賀伽藍石は希少。形物香合の一種ながら、交趾や古染付などのように「東 前頭○枚目」などという東西の順位番付を超越した位にあるためか、意外にその価値は見落とされがちです。
小品ながら、渋く重厚な香合。茶の湯の空間を引き締めます。