一器・一花・一菓
「お多福」古唐津茶碗
ぶち割れ 名残の名脇役
風炉から炉へ切り替わるお茶の世界の「衣替え」。10月は5月から始まった風炉の最終月、この時期は名残の茶事が行われます。
新茶を詰めて寝かせるため封印した茶壺を口切りする11月を前に、茶壺に残るお茶の名残を惜しみます。取り合わせるお道具もすべて控えめ、花は残花、茶器もやつれた風情を味わいます。茶碗は呼び継ぎや金継ぎの景色があるものを取り合わせるとよいと言われます。
10月に催した二つの茶会で、2番手、3番手の脇役茶碗としてお出ししたところ、お茶に造詣の深い方たちからことのほか、喜ばれた茶碗を紹介します。
古唐津のいびつ形の金継ぎ茶碗です。歪んでいびつになってしまった無地唐津です。縦にすると「お多福」のような下ぶくれで、なんとも愛嬌があります。
このお多福茶碗は江戸初期頃に作られたと思われ、三日月高台周りは大きく土見せになっており、唐津らしい土味を楽しむことができます。内側には釉薬のかけ外しがあり、わずかに凹んだりでっぱったり、奔放な造形。大きく金繕いしたあたりに、使うたびに染みが広がり、それもまた景色になっています。
桃山時代に九州北部で生まれた古唐津。朝鮮人陶工の手によってはじまった古唐津は 飾らぬ土味と豪放な造形で、愛されてきました。
近年とみに評価が高く、古唐津の茶碗はぶち割れでも、目玉が飛び出るほどの値段が付きます。ファンが多いぐい呑み、徳利などの酒器も高嶺の花です。
実はこの古唐津茶碗は、某古美術オークションで「京唐津茶碗」として出品されていました。古唐津としては異形な茶碗であり、下見の時から「やりすぎの京作」「いや古唐津だ」と意見が分かれたようで、入札スタート値が京唐津なら高すぎるし、古唐津なら桁違いに安い金額でありました。
ずっと使われていなかったためか、釉肌に潤いがなく、全体にカサついた印象でした。しかし、焼きしまった土味、高台中にかすかに見せる縮緬ジワ、てらいのない三日月高台、釉薬と土のかみ合いの良さを見て、異風ながら古唐津と確信した私は、思い切って高値を書いて入札票を投じました。結果、思いのほか、最低価格2倍足らずの落札額で入手することができました。
その後、名残の時期になると、箱から取り出して、慈しんでましたが、年々育ち、ついにお客様に披露する時季が到来。晴れの場で思いのほか、評価の言葉をいただきました。
ぶち割れは、名残の茶会や趣向によって存在感を放ちますが、時候、茶趣によっては全体の品位を下げかねません。お茶の取り合わせは適材適所、それ以上に「適時適役」を心がけたいものです。