一分閑話32〜服部清人〜年々歳々なれど
「咲くかなあ、あさがお」
と、水をやりながら美奈がいう。
去年よりひとつだけ年を重ねた分だけ、単に「お花」ではなく、ちゃんと「あさがお」と、他の花との区別をしている。
幸太郎はそんな些細なことからも娘の成長を感じ取って嬉しい気分になる。
反面、ほんのわずかに落ち着けどころのない妙な想いが沸き起こってくることを感じている。この娘とのこの時間はとどまってくれないのだ。
「でも、どうしてあさがおは枯れてしまうのかなあ」と、美奈がぽつりと言った。
「一生懸命咲いて、みんなに見られて、種を残して、また来年に次の花と交代するようにできているんだよ。そう決められているんだ」
「ふーん」。なんだか美奈は不服そうだった。幸太郎だって本当の答えはわからない。
みんなそうなんだと受け入れるしかないことだ。そのことを美奈が理解する頃のことを幸太郎は想像した。それがまだずっと先のことであるように、願っている自分がいることをはっきりと意識した。
それから数日して今年最初のあさがおが咲いた。
「パパ、今年もあさがお咲いたね」
美奈は相変わらず屈託のない表情で幸太郎に向かって言っている。
ぎゃらり壺中天主人
©️YOKOI Kazuo