味わう

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中堅・ベテラン9作競演
光った伊藤麻子、石川雅実
ダンスパラダイス2022

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 恒例の現代舞踊協会中部支部主催の合同公演「ダンスパラダイス2022」が2022年9月19日、名古屋市芸術創造センターで開催されました。第65回現代舞踊公演&第39回新人公演です。台風14号が東海地方に接近し大荒れのこの日、一部交通機関が運休する中、本来非公開のゲネプロが関係者に公開されたこともあって、帰りの足が懸念された本番は空席が目立ちました。

 中堅・ベテランが競演する現代舞踊公演は上演に先立って、今年2月2日、91歳現役ダンサーとして長逝した前支部長の関山三喜夫さんの追悼映像「今もどこかで踊っている」が流されました。最晩年までステージに立った舞踊人生に、客席から拍手が起こりました。

 上演順に次の皆さん、松宮莉花、五代菜月、小崎かおり、杉江良子、長谷川美樹、伊藤麻子、石川雅実、秀奈都代、服部由香里の各氏の振付9作品が並びました。いくつか印象に残った作品について、コメントします。
 

 松宮莉花さん「月の光〜師を想い〜」は、関山舞踊団メンバーによる三喜夫師への敬虔なオマージュでした。振り付け自体に新味はありませんが、静謐なアンサンブルは祈りと鎮魂の舞へ昇華されていました。

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 伊藤麻子さん「潜み音」は、石川雅実Dance Company7人の女性のダンスの練度、群舞のキレが際立っていました。作品名の通り、ささやくような心の揺れる思いを、滴が不規則に落ちる水音に絡むテクノ系の音楽に呼応して、さまざまに造形してゆきます。ダンスの熱量が高い若手の伊藤麻子さんがソリストとしてどう作品の軸になるのかに注目しましたが、あまり目立つことなく、牽引力が足りないように感じました。

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 石川雅実さんはソロ作品「re-birth ー始まりのときー」。今年50歳を迎えたベテランが、これからの舞踊人生への秘めた決意をダンスに託した作品と見受けました。ダンサーとして恵まれた長い四肢を生かして、隙のない律動的な動きで、何かしら語りかけてきます。しかし、ぐっと心に突き刺さるようなメッセージまでは響きません。
 服部由香里さんの「Imression~黄砂〜」は、東アジアの砂漠(ゴビ砂漠、タクラマカン砂漠など)や中国の黄土地帯から強風により吹き上げられた多量の砂じん(砂やちり)が、上空の風によって運ばれる黄砂を、ダンス化した異色作です。通常なら人間でないものを、人間になぞらえて扱う擬人化によって、自然現象を扱うところ、むしろダンサー15人を擬物化します。草原が枯れて砂漠化してゆくような冒頭シーンは、新鮮でした。

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 新人公演は8組がソロ・デュオ作品を踊りました。五代果凛さんの「うずくまる」は、屈託を抱えた女性の日常と非日常を表現。

 若手男性ダンサーの仙石孝太朗さん「紫苑ーシオンー」は、亡き関山三喜夫師譲りの半纏を羽織って、追慕のダンス。ダイナミックな回転技をするたび、着地後のわずかな乱れがあり惜しい。初参加では山田紗夕さんの作品に余情があり、目に留まりました。

 現代舞踊は本来、時代を映し出す舞踊の役割を担っているはずですが、相変わらず舞踊家自身の経験や心理を虚構化したような、内省的な心境吐露の作品がほとんどです。スタイル、ジャンルももっと多様性があっていいはずですが、いわゆるモダンダンス一色であることも思えば不思議です。
 本公演の出演者・団体の拠点を見ると、愛知県岡崎市、西尾市、三重県四日市市、静岡県富士市の新興勢に勢いがあり、奥田敏子以来のモダンダンスの伝統がある名古屋の衰えが気掛かりになった一夜でした。
 =WEB茶美会編集長 長谷義隆
        (写真撮影・東海フォトデザインシステム)