味わう

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水墨画 福田泰古が見た 国際芸術祭あいち2022
どう生きるか 問う作品群

 国際芸術祭「あいち2022」が7月30日開幕しました。

水墨画が専門で、現代アートのことはいまいちわかってない私、福田泰古ですが、3年に一度!地元愛知、芸術祭! ということで、鑑賞しないわけにはいきません。

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今回のコンセプトは、
「STILL ALIVE ~今、を生き抜くアートのちから~」
愛知出身の世界的コンセプチュアルアーティスト、河原温さんの《I Am Still Alive》シリーズから着想を得たテーマだとか。

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 STILL ALIVEは、直訳すると「まだ生きている」。ドキッとする言葉です。
生きていないはずなのに?もうすぐ死んでしまうけど?
色んな状況が思い浮かびます。
どのようにも取れそうなこのメッセージを、作家さんたちはどう捉えてどう伝えるのかな?

今回は、そんな目線で見て参りました。

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 メイン会場の名古屋・栄の愛知芸術文化センターで、初めに見たのは小野澤峻さんの《演ずる造形》。

機械で制御された6つの振り子のようなものが、絶妙な間隔で集まっては離れることを繰り返します。
ダンスのように楽しく円を描くような動きをする振り子、でもよく見ると直線運動で行ったり来たりしているだけ。不思議な作品です。

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 荒川修作さんとマドリン・ギンズさんの《問われているプロセス/天命反転の橋》は、二人が1970~80年代にかけて手掛けようとしたプロジェクトを10分の1スケールの模型で設置したもの。
模型でも伝わる複雑な構造美です。

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「天命反転」とは、例えば人の死など、天命だと思っていることを、思考方法に刺激を加えることで反転させる。つまり、覆す。という意味だそうです。
このプロジェクトがもし完成していたら、渡ることで天命が変えられる橋が出来ていたということでしょうか?発想がすご過ぎます...。

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 一宮会場の「オリナス一宮」では、大正13年に竣工したクラシックな銀行建築の中に、ファン必見の奈良美智さんワールドが展開されています。特に《Fountain of Life》は、静かな青い空間で、カップの中に折り重なった子どもたちが涙を流し続けているという胸を締め付けられるような作品。

何がそんなに悲しいのでしょうか。でも、生きるというだけでも悲しみは尽きないのかもしれません。

 一宮会場では、他に旧看護学校で複数の作家の作品を展示しており、見ごたえたっぷりです。
 元看護実習室だった所には、小杉大介さんの《赤い森と青い雲》という作品。
空のベッドが並ぶ病室のような空間で、突然後ろのスピーカーから人の話し声が聞こえてきたりして、結構驚きます。

 ベッドの主はもういない、でもどこからともなく声だけ聞こえてくる。感じられる気配に、ここにどんな人がいたんだろう、となんとなく思いを馳せてしまう。繊細な作品です。

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 一宮は、古くから繊維業が盛んな土地です。豊島記念資料館では、数々の織機や民具とともに、作家の遠藤薫さんが《羊と眠る》という羊を使った作品を展示しています。
青い照明と夏の暑苦しさの中、羊を解体し、毛を織る様子を見ていくのは中々重たいものを感じます。
しかし、二階に上ると壁一面に広げられた羊毛で織った落下傘の作品。

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 土臭い工程を経て織られた作品には、宗教的な美しさ、祈りが宿っています。時間をかけて現実的な作業を行わないと、こういうものは作れないと思わされる作品です。

 名古屋市緑区の有松会場では、伝統的な街並みと現代アートが調和の美を生み出しています。

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 瓦にのる鍾馗の像が可愛らしい川村家住宅蔵では、アラスカ先住民にルーツを持つタニヤ・ルキン・リンクレイターさんの映像作品とインスタレーションが展示されています。

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 コーコム(祖母)・スカーフという民族の布、そして、その上に積まれた石。イヌイットの石積文化であるイヌクシュクがよぎります。
この石は、愛知県内で採取した石に作品の意図を語りかけ、移動中の景色が見えるように大切に扱い運ばれてきたものだとか。
 普段の生活では、なかなか石に命を感じる機会は少ないかもしれません。顧みられないものを大切に扱うということが、世の中も自分も幸せにすることに繋がる。そんなメッセージを感じました。

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 有松・鳴海絞りの工房「張正」で展示しているのは、豪州先住民の血を引くイワニ・スケースさん。
工房の半分を釣り下げられた1000個のガラスが埋め尽くす《オーフォード・ネス》という作品です。
青いガラスは、先住民の主食であるヤム芋の形を模しているそうです。先住民の土地で何度も行われた核実験がテーマとなっている作品で、ガラスはまるで住民の人々が流した涙のようにも見えます。

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 ひどい目にあっても、沢山のものを失っても、「まだ生きている」。
先住民の人々と同じ目にあったとき、自分ならどうするだろう。そういうことを考えさせられます。

愛知県知多半島の常滑会場は、INAXライブミュージアムや、やきもの散歩道を中心に展開されています。

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 アフリカのベナン出身のティエリー・ウッスさんは、自国の特産である綿花とそれにまつわる貧困問題などを扱った作品を展示しています。愛知県も綿花栽培や綿産業の歴史があることに注目。《知多の労働者》と題された絵画作品は、知多の木綿栽培の歴史における労働者に対する共感を描いたものではと思います。

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 自国の問題を発信するだけではなく、遠い国の過去の労働者にまで想いを寄せることができる。そういうところにアーティストの真実が表れている気がします。

 数々の作品を見ていて、
"生きることを諦めない"
"悲しいけど生きていく"
"想いは残る"
"命は続いていく"

そのようなメッセージを感じました。

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今回の芸術祭のテーマ、「STILL ALIVE」。
"今まで色々大変なことがあったけど、死はやってくるのだけど、でも、まだ生きている。
さぁ、じゃあこれからどうする?"
私自身は、そう問われた気がしています。

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 文=ふくだ・やすこ(水墨画)