乙だね「 東海道五十三次どどいつ」
華房小真さん今昔の旅情緒を唄に
受講生と拓く風流の新境地
端唄・小唄の華房小真(はなぶさ・こまさ)さんが、東海道五十三次の宿場町を旅気分で巡る新作どどいつ(都々逸)唄本を自費出版しました。
「どどいつで旅する五拾三次」。A5判約120ページ。歌川広重作の浮世絵風景画の傑作「東海道五十三次」の図版とミニ解説を添えて、起点の江戸・日本橋に始まり、53の海道宿場を巡って、終点の京都・三条大橋まで 。往時の景色、故事、今も伝わる名物、変わらぬ男女の色恋を織り込んで、それぞれの宿場界隈の今昔が、小粋に唄いあげられます。小真さんはじめ13人が捻った、55カ所のご当地の魅力を唄ったご"当地ソング"約280番が詰まっています。
都々逸は三味線の艶のある糸の音にのせて、自分の"つぶやき"を26文字(7・7・7・5)で自由に表現し唄う座敷唄です。男女の色恋、艶ごとをテーマにした乙な唄が通人に愛されましたが、小真さんはもっと身近な素材で、初心者にも楽しみながら作って唄ってもらおうと、現代どどいつをリード。講師を務めるNHK文化センター名古屋教室で、東海道五十三次をテーマに、講生と月2回の講座ごとに実践した内容をまとめました。
コロナ禍の一時休講にも遭遇しましたが、オンライン講習などで創作を途切らすことなく、4年がかりで完成した労作です。
都々逸は江戸時代後期に江戸で流行した座敷唄です。実は、旧東海道の熱田神宮の門前にあたる宮宿(みやのしゅく)が発祥地だったいわれます。
都々逸の元になった「熱田神戸節」は、熱田にあった花街「神戸(ごうど)」で生まれ、鶏飯屋という茶屋のお亀とお仲が唄い出したといわれています。「そいつはどいつじゃ、どどいつどいどい」の囃し言葉の歌が受けて、江戸に伝わり、都々逸として人気を博しました。
地元名古屋に根ざした三味線唄の保存、継承に取り組む母真子さんから、端唄華房流を継いだ小真さん。親娘は以前、テレビ番組で熱田神戸節を披露することになり、お弟子さんたちに「ぜひ聴いてね」と宣伝したときのこと。お弟子さんの一人が真子さんに「実は私、お仲の末裔なんです」と申し出ました。これがきっかけとなって、伝説の彼方にあった鯛屋お仲の実像が浮かび上がりました。飯盛女だったお仲は、大楼「鯛屋」の後添えになり、経営手腕を振るう唄上手、熱田の女傑として活躍したそうです。熱田神戸節のルーツを掘り下げるほどに、熱田発祥のどどいつ愛が高まったと言います。
今回は、それを拡大した東海道五十三次版。小真さんが「みなと共に作り、唄い、あらためてどどいつの奥深さとその魅力に気付かされました」という唄本です。一部に素人っぽさはあるものの、風流な小唄の世界に「旅もの」「歴史もの」の新境地を拓く試みです。
小真さんは名古屋だけでなく、ほかの宿場町でも演奏会を開いてゆく予定です。
《華房 小真(どど一 小真)端唄 華房流華の会 家元、甚富華と正調名古屋甚句を拡める会 副代表、熱田神戸節どど一保存會 副会長。 端唄・三味線・名古屋伝統音楽(甚句、都々逸)の演奏家として舞台・テレビなどに多数出演。 日本小唄連盟「若樹賞」、日本伝統文化振興財団「市丸賞」受賞。 NHK文化センター講師、椙山女学園大学の外部講師をつとめる》
唄本「どどいつで旅する五拾三次」の希望者は、以下の華房小真さんのメールアドレスに連絡を。送料込み2,500円で頒布。
komasa.hanabusa87@gmail.com