味わう

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有楽流長谷さん 茶恩に報い追善茶会
亀井猛・大川やす子氏の遺徳偲ぶ
志ら玉木曜会卯月釜

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 茶どころ名古屋を代表する月釜の一つ、木曜会卯月釜は2022年4月7日、名古屋・上飯田の茶懐石志ら玉で開かれました。有楽流拾穂園主の長谷義隆さんが、今年1月7日死去した数寄茶人、亀井猛(かめい・たけし)さんとその良きパートナーであった大川やす子さんを偲ぶ追善の一会として2人の霊前に茶を手向けました。

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 お2人と生前親交があった長谷さん。亀井さんは昨年5月に担当する予定だった木曜会の席主が果たせないまま、他界したため、その遺志を汲んで、最後の茶会に披露するはずだった茶器を関係方面の協力を得て、取り合わせました。茶会スタッフ、お客には両氏有縁の方々が寄り合い、「おふたりにいい手向けになりました。きっと泉下で喜んでいる」との声が寄せられました。

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 寄付には、亀井さん遺愛の「悲母観音・善財童子図」を床の間に掛けて、お2人の遺影を飾った卓に茶・菓を供えました。

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 本席は、亀井さんが木曜会の前身である浄念寺七日会で初陣の席に使った藤原俊成筆の歌集切を床に掛けて、亀井家の庭に花を付けた大輪の御殿椿「袖隠し」と、白花山吹を花入に投げ入れました。歌切の冒頭は「夢にだにあふと見る間の暁は落つる涙のかげそわりけり」の哀悼の歌です。
「砧(きぬた)青磁浮牡丹(うきぼたん)」の花入は、花入の最高峰として知られます。亀井さんは生前「日本一の花入で客を驚かせる」と目論んでいました。その遺志を汲んでの登場です。完品なら国宝級、市価「億」は下らぬという評価の高いものです。本品は口まわりが補修されていて、そこまで高くはないけれど。美術商によると「売値は500から1,000(万円)」。まさに、高嶺の花です。

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 粋な表具が印象的な平安朝古筆と砧青磁の花入、椿最大の花容を誇る袖隠しの3点セットの床の間は、格調ひときわ高く、しかも故人ゆかりの揃い踏みで、茶客から感嘆の声が上がりました。

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 追善の一会に相応しく、香合は古伊賀の伽藍石、釜は寺号入りの天正与次郎など。主菓子は銘「しのぶ草」(芳光製)。おふたり御霊がかすかに見えるよう。干菓子は亀井氏の干支にちなんだ「玉兎」、大川さんを偲ぶ蓮の花をかたどった銘「蓮弁」。いずれも席主の肝入り特注品です。茶碗も故人が愛した高麗茶碗、現代作家の作品などが取り合わされました。

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 一点いってん吟味した道具を用いて、季節感の中に巧みに故人の遺徳を織り込んだ趣向は、珍器、古器陳列に陥らない精神性をたたえた茶会として、「茶道に明るい希望が持てた」などと、多くの茶客の心に刻まれたようです。

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 硯屏(けんびょう)飾りをした品位ある点前座に、武家茶道の古流・有楽流の凛として優美な点前、所作が映えました。

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 亀井氏は2022年1月7日、腎不全のため死去しました。満82歳でした。

長年連れ添った大川氏は2021年2月28日に満79歳で病没。陶芸家鈴木五郎、金工長谷川一望斎らのコレクターとして知られ、愛知県小原村(現豊田市)に構えた山荘を舞台に、異色の茶会を数々開きました。その模様は雑誌に何度も特集されるなど異彩を放った趣味茶人でした。美食家で数寄茶道を愛した個性派カップルに、あらためて合掌。