味わう

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2つの「花乃舎」を楽しむ
桑名で「やまと絵のしらべ」展
美味なる白玉ぜんざいも

 「焼き蛤」「しぐれ煮」に代表される豊かな食文化が息づく三重県北部の桑名市。桑名藩11万石の城下町、東海道五十三次の「桑名宿」として栄たこの町には、「花乃舎(はなのや)」の号をいただく2つの誉れがあります。

 一つは桑名きっての和菓子の老舗「花乃舎」。かたや、幕末から明治にかけて復古大和絵派の絵師として活躍した画僧、帆山花乃舎(ほやまはなのや、1823〜1894年)です。ともに明治初年、久我通富卿に同じ雅号を所望し「花乃舎」の号を分け合ったとされます。

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その帆山花乃舎の画業を軸に、その源流となった復古大和絵の系譜と後進の画人たちに与えた影響を一望する展覧会「やまと絵のしらべ ―帆山花乃舎と復古大和絵―」が、桑名市博物館で2月27日まで開かれています。
帆山花乃舎は、幼い頃から絵に親しみ、浮田一恵や渡辺清に師事してて土佐派の絵を学び、幕末から明治に画才を開花させました。

本展では、同館所蔵の花乃舎作品とともに、花乃舎が師事した浮田一蕙や渡辺清、そして復古大和絵の祖である田中訥言、ずば抜けた画業を残した冷泉為恭、東京国立博物館ならびに京都国立博物館所蔵の作品も展覧し、王朝文化復古の芸術思潮、花乃舎の画風の源流に迫っております。花乃舎の初期の生硬な画風が一変する様子がうかがえ、興味深いです。

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 66点の展示がある中で、花乃舎が源氏物語を題材に春と秋の華やかな景色を描いた「桜狩」「紅葉狩」1対の屏風はその代表作です。当時の桑名藩主の所蔵品とされ、高価な岩絵具がふんだんに用いられ、繊細な筆使いが際立ちます。藩主から桑名の旧家岡村清兵衛家が拝領し、岡村家の桑名市博物館に寄贈されたという来歴から、桑名に根付いた復古大和絵の歴史を物語る逸品といえましょう。

 桑名の真宗高田派・䑳崇寺の住職を務めるかたわら、画業に邁進。栗田真秀などの地元の絵師や、桑名の焼き物である萬古焼の再興に挑んだ陶工・森有節にも絵を教えていました。後進の画人たちに影響を与えた花乃舎は、大和絵の作風を桑名に伝え、当地域の芸術文化を育み、発展に寄与した人物であるといえるでしょう。


 ただ、本展では欠落していますが、花乃舎の弟子筋には尾州久田流宗匠・下村西行庵(しもむらさいぎょうあん 1833~1916年)がいます。桑名と海路で結ばれた名古屋郊外・大高にあった西行庵は絵をよくし、絵は花乃舎に学んでいたとされます。
西行庵に茶を学んだ近代の中京を代表する数寄茶人・森川如春庵(1889~1980年)は、復古大和絵派の森村宜稲(よしね)に絵を師事しており、今も中京茶道界では復古大和絵が茶席で頻繁に用いられております。

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 桑名市博物館から徒歩数分のところに、和菓子の老舗「花乃舎」があります。全16席の書画の飾られた落ち着いた喫茶室は、WEB茶美会のお気に入りの甘味処。素材・作りたてにこだわった白玉や葛餅、ぜんざいなどが楽しめます。茶席向きの生菓子、干菓子、焼き菓子が多数取り揃えられており、展覧会鑑賞がてら、豊かな桑名の食文化の一端が楽しめます。