映像・音響が触発 ダンスの進化形
「Fuego Negro ~三つの扉~ 」
礒村崇史さん 小劇場「 MI PATIO」開設
名古屋・千種公園近くにできた小劇場「 MI PATIO」(ミ・パティオ=スペイン語で「私の中庭」)。その柿落としシリーズ最終章となるダンス公演「Fuego Negro ~三つの扉~ 」が2021年12月19日(日)、 愛知県名古屋市千種区神田町のMI PATIOで上演されました。
Fuego Negroはスペイン語で「黒い炎」の意味。古典的なフラメンコを追求する礒村崇史さんが、フラメンコ新潮流を体現する加藤おりはさん、ヒップヒップから出発しジャンル横断のダンスを志向する小山田魂宮時(たくじ)さんに呼びかけて、ジョイント。3人の共演は、加藤おりはさんが11月に主催したスペイン舞踊公演「 Soplar ~いのちの風焔~ 」で絶賛されたばかり。記憶に新しいところです。
同公演を盛り上げた映像:山田定臣さん(+Bright) 音響:高崎優希さん(AIRE)がFuego Negroにも参画。小劇場「 MI PATIO」開設で舞台芸術家として新たな境地に踏み出した礒村さんが、名古屋のダンスシーンの先端をゆく共演者、スタッフを得て、柿落としシリーズ最終公演に臨みました。
舞台と客席は、コロナ禍の空気感染を防ぐためアクリルボードで仕切られ、さらに映像を投影するための紗幕スクリーンがあり、客は大きな水槽の中で演じられるダンスが、実像なのかバーチャルなのか、判然としない非現実的な不思議な感覚を味わうことになります。
公演本編が始まる前に、映画の予告編のような柿落としに関わった舞踊団のCM映像が流され、まるでミニシアターで映画を見るようだと思っていたら、Fuego Negroの出演3人が紗幕越しに現れました。彼や彼女が実物か映像か分からないまま、CG投影による3つの扉が現れ、ダンサー3人によるソロを主体に、デュオ、トリオが展開されてゆきます。
羽虫が舞う渓流の映像に触発されたダンスや、映画『スター・ウォーズ』の光剣の格闘を想起させるような演技の後、いきなり流れる懐かしのムード歌謡『コモエスタ赤坂』によるタンゴダンス。ジブリ音楽に触発されてCGの激流映像に抗って踊るシーン。人、人、人の人流を押しとどめようとする巨人‥‥。この脈絡のなさがむしろ面白く、途中から、物語性の詮索などは不要、走馬灯のように展開する流れに身を浸していることが肝要と思いました。
オムニバス的に映像とコラボするダンスシーンが続くこの軽やかさ。それこそがこの作品の持ち味で、その一方で3人の緊密なコンタクト・インプロビゼーション(即興的なダンス)など、一つ一つ見応えのあるシーンの積み重ねが、作品に程よい重量感、質感をもたらしていたと思います。
空間全体を音場とする立体音響の素晴らしさと相まって、CGとダンスの共演の進化形がここに現出した、と感じました。
MI PATIOは旧ニチエイ調理専門学校を改修して、3階フロアに開設。約50人が座れる客席は3段になっており、小劇場としては見やすく、舞台スペースも客席並みの広さがあります。コロナ禍に対応してライブ配信に強みを発揮。最新の映像、音響、照明の機能を有し、新たな芸術発信基地として注目すべき空間です。
この劇場を開設した礒村崇史さんは、日本フラメンコ界をリードする小島章司さんに師事。本場スペインに1995年から3年間滞在し、伝説的なフラメンコ名門のファルーコ一家の元で技を磨いて帰国しました。親譲りの調理専門学校の経営の傍ら、フラメンコの後進を育成する異色の舞踊家です。
日本人離れした容貌と独特の存在感を生かして、近年は現代舞踊の倉知可英さん、スペイン舞踊家加藤おりはさんらと共演。この3人が共同振付し出演した倉知可英ダンス作品「浮遊する肉体」は、2019年度河上鈴子記念現代舞踊フェスティバル賞を受賞。名古屋のダンスシーンで注目の個性派ダンサーの1人として、新境地を開いています。
(WEB茶美会 長谷義隆)