松月堂古流いけばな名古屋展
花台と相乗「竹取のかぐや」彷彿
久野さん母娘 詩情豊か蓮の大作
吉田みき江さん古典美
「未来へつなぐ花のメッセージ」をテーマに、第46回日本生花司 松月堂古流いけばな展が2024年9月4日から9日まで、名古屋市の名古屋駅前、名鉄百貨店本店催事場で開催されました。家元、直門作品を軸に、東海、関西、東京などから前後期合わせて278点が出瓶される大型華展です。
「声なき花々の声に耳を澄まし‥‥花の命の可憐さに思いを託して観る人に想いを伝えていくことができますように」と開催メッセージ。そんな願いを込めた作品群が、広い会場を埋めました。
植松賞月家元の作品は、なお続く猛烈な残暑からはや抜け出し、竹の根っこを加工した巨大な竹花入と曲線を描く青竹で隈取りした大空間に、紅葉した木々の間から秋の花々が咲き乱れる様子を、ダイナミックに表現。山々を抜ける爽やかな秋風を感じさせる大作です。
後期展(7〜9日)のうち現代花では、蓮を大胆に用いて詩情豊かな茶味ある作品を出している栄春久野治子さん、綾美久野綾子さん母娘(名古屋市)の作品がひときわ目をひきました。
毎年、名古屋から蓮田が広がる愛知県木曽川近くの農家に直接出向いて、蓮を大量に仕込み、苦心して水揚げした蓮を会場に持ち込み、いつ萎れるとも分からない蓮の葉を養生。
今回は、渦巻く観世水(かんぜみず)文様状に配置した蓮の連なりに、表情の異なる11輪の花と実2本が見え隠れして、さらに矢筈ススキを添えて、初秋の風が蓮池に吹き抜ける様を象徴します。
この泥があればこそ咲け蓮の花。バックヤードには、萎れたらすぐ取り替えることができるように、出瓶した花材の数倍もの蓮を用意してあるとか。人知れずの苦心、苦労があっての、蓮の大作。まさに「声なき」蓮の葉と花の心に耳を澄ませ、泥中の蓮を例え通り、作者の想いと苦心がグッと伝わってきます。
流儀独自の形式に基づいて立花する生花の部に、目を引く作品が多かったのが、今年の後期展の特徴です。清栄軒辻栄治さん(岐阜市)は、常緑樹のトキワマンサクの枝木を巧みに剪定し、水鉢に辛うじて花留めする技巧を駆使し、可憐な白い花々を添えて、 松月堂古流らしい自然観を表現していました。
松幹庵吉田みき江さん(名古屋市)は、9月9日の重陽の節句に合わせて、白、黄、赤の菊花を7本、5本、3本の取り合わせました。立花は正面から見ても、横から見ても個々の花が顔をのぞくように、流儀独特の型に則って、古典的な様式美の世界を追求していました。
今回の松月堂古流展では、花器、花台の取り合わせで、相乗効果を生む魅力的な作品がありました。玉章園山口泰弘さん(愛知県豊橋市)の作品です。葉蘭を天へのぼる階段のように組み合わせ、足元にはナデシコを一輪。中秋の名月を控え、満月の月影のもと、地上で別れを惜しむかぐや姫のように見えたのは、わたしだけでしょうか。
観るものの想像力をアシストするように、花台は、秋の草花が咲き乱れる野を静かに照らす中秋の名月の文様が、華麗に金銀蒔絵された文台です.古典美の中に、物語性が織り込んであり、感銘を受けました。
楽焼の表面に蒔絵を施す名古屋独特の「木具写し」豊楽焼の名品が、花器として使われていました。北海道から出瓶した淳月庵村田淳子さんの作品です。千羽鶴が舞う金蒔絵を施した薄端の花器は、あたかも精妙に轆轤を回した漆器のよう。
しかし、その器胎は、焼き物、しかも軟陶の楽焼であることが信じられない精緻な造りです。薄端の表面は、白地に緑釉がかかり、豊楽らしさを出しておりますが、直径30センチはゆうに超える薄い円盤状を楽焼で焼成する技は、驚異的です。この時季には入手難の菖蒲が一輪。北海道から空輸でもしたのか、あるいは地元愛知に手助けしてくれる奇特な人がいるのか、いろいろ想像をたくましくして、拝見しました。
日本生花司松月堂古流は、江戸時代中期に僧侶の是心軒一露師によって京都で創流された流派です。安政3年(1856年)、当時の家元が孝明天皇に生花を献上したところ、これを喜んだ天皇から「日本の生花の司であれ」との褒められ、以後「日本生花司」の5文字を冠した日本生花司 松月堂古流を正式な流名とし、分流した各流派との区別化を図っています。