見る・遊ぶ

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「三色」に染まる朝陽波浪図
一転、後座はや初秋の気配
拾穂園「愉か多会」

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「ほほう。この絵自体が三色のトリコロールですね」。思わぬお客さまの感想に、驚かされました。パリ五輪開幕にさきがけて開いた有楽流穂園の一門茶会「愉か多会(ゆかたかい)」。「拾穂園」(愛知県稲沢市)の薄暗い初座・小間席から、後座・広間席に移ると、一転、明るい室礼に変わりました。床には、近代京都画壇の橋本関雪(1883~1945年)の「朝日波浪図」。龍のようにうねる波濤の向こうに、希望の光に満ちた朝日が上がる、とてもおめでたい絵柄です。

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「前途洋々」。見るものをそんな気分にさせる活力に満ちています。愉か多会冒頭に鑑賞してもらった、後陽成天皇(1571〜1617年)の勅銘香「朝日影」。この名香を受けての掛け軸でしたが、なるほど、青、白、赤の三色だけで描かれています。パリ五輪の開催国フランス国旗のトリコロールは本茶会のテーマの一つでしたが、亭主のたくらみを超えてイメージが膨らむ面白さ。一座建立の妙でしょう。

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小間の「陰」と、広間の「陽」。両席とも諸飾りで対照的な室礼を演出してみました。この時期は夏枯れ。花が少ない時ですが、木槿の品種を変えたくらいでは、変わり映えしないと思い、季節の移ろい、忍び寄る秋の気配を表現したいと、工夫しました。

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開会式の聖火ランナーが掲げるトーチをイメージして、蒲の穂を芯に据えました。咲きだした紅、白の小菊、秋風に揺れる狗尾草を一本、さらにはや紅葉した照り葉を添えて、秋の五種生け。豪快なへら目が入った躍動感みなぎる花入に投げ込みました。
当初は、籠の花入をと思っていましたが、花材が揃って、花づもりをしてみたところ、関雪描く躍動する絵には映らず、花入を差し替えました。

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選んだのは、津軽金山焼(青森県五所川原市)。先年の津軽旅行の折、本州最北の窯場に足を延ばして、力感みなぎる造形に惚れて求めた一点です。焼き締めの備前焼さながら、古池の湖底で見つかったねっとりした良土をひいて器形を造り、登り窯で薪焼成。訪れた時も、斜面に築窯した登り窯が炎と煙を上げている最中でした。窯元の松宮亮二さんの作ですが、人為を超えた土と炎が生み出す造形、自然釉が魅力的です。花入にもなり、特注した塗蓋を付ければ、名残の「中置き」の水指にもなる優れものです。


窯の炎が直接的に当たる正面と、今回用いた裏側とでは景色がガラッと変わります。お茶の花入として少し背が高すぎるのですが、茶の寸法に収まりきらない破格の躍動美があって、気に入っています。


ちょっとくどいようですが、花入の右脇に青栗を葉っぱごと、黒竹でざっくり編んだ扇面の上に飾ってみました。青々とした毬の針が凛々しく、初秋の気配というだけでなく、オリンピックという最高にして最難関に挑むアスリートたちの決意のようなものが見て取れる、と感じたからです。青栗が実って笑み割れして、美しい栗の実を見せてくれることを願って。

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茶の湯は不易流行。変わらない茶の心を持ちつつ、同時代を生き、現代に共鳴するものでありたいと思います。

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有楽流拾穂園は園主の長谷義隆が、流祖織田有楽斎の創意工夫の茶風を慕って、伝統的な茶の湯の美を重んじつつ現代に響くお茶とは何かを問うて、伝統と革新を両輪とした茶道を展開している場です。次回茶会は九月十五日(日)に、恒例の拾穂園四季の茶の湯を催します。入会希望者の見学随時受け付けます。また、茶会参加希望の方とも、問合はメールで。sabiejpan2021@gmaii.com