見る・遊ぶ

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パリ五輪祝う拾穂園「愉か多会」
三色旗に敬意 「金」ラッシュ願い
茶香一如で楽しむ夏土用

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有楽流穂園の一門茶会「愉か多会(ゆかたかい)」が2024年7月20日、茶美会日本文化協会の本部茶室「拾穂園」(愛知県稲沢市)で開かれ、涼しげな浴衣姿の茶客が趣向を凝らした名香鑑賞席、冷茶、温茶の三席を楽しみました。

日ごろの稽古発表を兼ねて愉しみ多かれ、と名付けられた夏季恒例の愉か多会。

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名香鑑賞席は、豪壮な長屋門の一翼を田舎家茶室風に改装した「風月」の間で。安土桃山・江戸前期に宮廷文化・文芸の復興に力を注いだ後陽成天皇(1571〜1617年)の勅銘香「朝日影」を鑑賞しました。

木所は「上古伽羅」、位「上々」、味「甘辛苦」。えも言われない深々とした香りの朝の光が差し込むようです。舶来したての伽羅ではなく、いえにしより伝わって無銘の伽羅を、香道にも通じていた帝が愛でて、朝日影(朝の陽の光の意)と銘を付けのでしょう。上古伽羅、とは言い得て妙。舶載したての「新伽羅」におうおうある、角が立った生硬さがなく、まろやかに熟成された味わいです。「甘辛苦」を鑑賞すべく、連客で二度聞き回して、香りの変化を楽しみました。

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風月の露地口からいったん、屋外に出て、飛び石伝いに小間席へ。苔むした織部燈籠と蹲(つくばい)がよく水打ちされて、涼を誘います。

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小間席は、下地から七回重ね塗りした土壁に囲まれた茶席です。間もなく開幕するパリオリンピックに向けて、日本勢の活躍を願う取り合わせです。日本代表の凱歌を象徴し、江戸時代の千家茶匠自筆の「君が代」懐紙を掲げ、そこへ純白の木槿「祇園守」、薄紫のジャノヒゲを添えて、前祝いと清涼感を表現しました。唐物朱の輪花盆に青磁鳳凰耳の花入。

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さらに、呉須赤絵の赤玉香合を脇に配しました。「自由・平等・博愛」を表す青・白・赤の三色旗(トリコロール)フランス国旗に敬意を表しつつ、表彰台の日の丸掲揚を象徴します。

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床の間は僅かに灯を灯しましたが、室内は自然光のまま。薄暗い茶席内はいわば幽明境。暗い中でも目立つ白楽の建水(讃窯道八製)から取り出した、鉄製の駅鈴蓋置はカラカラと微かに鳴り、錆びた音が厳粛な雰囲気を醸します。

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古備前の小ぶりの水指に、蓮の葉を蓋に見立てた「葉蓋」をのせて。蓮の葉中央に水晶のような水玉が鮮やかです。葉蓋の点前の見せ場は、水晶を転がしつつ葉っぱごと、こぼしに運んで、ひとしずく落とすや、葉っぱを手ばやく畳んでこぼしに捨てる。その手際にあります。
朝切ってよく水揚げした蓮は、一回使い捨て。蓮の水揚げは、知る人ぞ知る難しさ。亭主肝いりの、まさに一期一会の夏点前です。

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氷水をたっぷり張って釜の表面に汗をかいた西村道也作の田口釜は、こぶりながら鉄味よく。そこから汲んだ名水で点てた冷抹茶を「茶巾洗い」のお点前で。この日の仕上げは、食用金箔の振りかける特別パフォーマンスです。この一会のため、金沢「箔座」製の食用金箔を求めました。水屋の点てだしを含め、その場で振りかけるたび、歓声があがりました。

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金箔入り抹茶で点てるのとは断然違います。お客の眼前で「振り金」するライブ感。厳粛な雰囲気のお茶には向きませんが、愉か多会のようなライトな茶会には、これでもかのサプライズになったようです。

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主茶碗こそ、本時代の天目茶碗「鷲(らん)天目唐草文」を用いて「重し」としましたが、次客以下の茶碗はいずれも三色旗をイメージした軽やかな取り合わせ。「尾州家萩山焼織部釉」「高麗粉引平」「赤織部輪花」、、、。一点いってん、苦心して収集した本格の夏茶碗ですが、トリコロールという切り口で取り合わせてみると、また違った風情、見え方があります。

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村方にも茶の湯が根付いた尾張地方。拾穂園は日本建築の母屋の庭を借景に、周遊式の苔むす茶庭が広がります。庭と茶室が一体化した庭屋一如の茶の湯空間です。設計・監修は国内外の日本庭園を手がける野村勘治氏です。

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苔の絨毯を敷き詰めた築山に面した広間席の手前座は、鉄の鳳凰風炉に富士釜を載せ、水指は中国古代青銅器の文様をモチーフにしたギヤマン製。こちらは、オーソドックスな有楽流の薄茶点前での温茶の振る舞いです。

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今茶会のもう一つのテーマは日の丸と表裏一体の「金」。金メダルです。寄付に置いた会記の文鎮には、いささか強引ながら、秘蔵のオーストリア造幣局発行の地金型「ウイーン金貨ハーモニー」を初出し。冷茶席は「振り金」、最後の温茶席の「金」は金張りの風炉先。木地に金蒔絵を施した棗、干菓子器には、金・銀蒔絵に金貝を施した琳派四方盆など、金の要素が入った茶器を取り交ぜ、祝祭感を演出してみました。

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パリ五輪をどう、茶の湯で表現するか。なかなかの難問でした。オランダ、英国、スペインなどなら、ありそうですが、フランス製となると、見立て以外は、茶器はまず皆無と言っていいでしょう。ないならないで、工夫のしようがあるのではと、国旗のトリコロールに着目。青・白・赤の色のモチーフに、日の丸・金のテーマを掛け合わせて。もちろん季節感は欠かせません。後の展開を予兆する名香鑑賞を組み込んで、場面転換を意識したユニークな茶会を目論んでみました。いかがでしょう。

勅銘香「朝日影」に呼応する後座の床の間の室礼は、稿を改めて、お届けします。

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有楽流拾穂園は園主の長谷義隆が、流祖織田有楽斎の創意工夫の茶風を慕って、伝統的な茶の湯の美を重んじつつ現代に響くお茶とは何か、伝統と革新を両輪とした茶道を展開している場です。次回茶会は九月十五日(日)に、恒例の拾穂園四季の茶の湯を催します。入会希望者の見学随時受け付けます。また、茶会参加希望の方とも、問合はメールで。sabiejpan2021@gmaii.com