拾穂日乗〜初咲き 炎暑一服の夕〜純白「槿花一朝の夢」知らぬげ
35度越えの炎暑が一週間以上も続いて、夕立を待ち望んでいた今夕。2024年7月9日。部屋こもりから拾穂園の庭に出ると、水を打ったように思わぬ水溜りがありました。オヤ。ひと雨降ってくれたんだ。ありがたい。ぐっと涼しくなって、蝉たちも雨を待っていたのでしょう。木々の潤いに蝉しぐれも一段と盛ん。ミミズのジーっという鳴き声も賑やかです。
庭の一隅を眺めると、なんと、純白のムクゲが一輪。初咲きしておりました。もう午後五時台。朝咲いて夕べに萎む「槿花一朝の夢」の定法を知らぬのかのように、初咲きした白い花。吸い寄せられました。レース編みのような透けて見えるような薄い花びらに、夕立の細雨を浮かべて、夏の夕風に揺れています。その風情のはかなさ‥‥。
一重咲き。数えると七つの花弁があり、花の直径は十センチほど。
白ムクゲで有名な「祇園守」や「大徳寺」のような半八重咲きにある、内側の花弁はありません。仔細に見ると、リボンのような内弁が一つ。花芯に軽やかに巻き付いていました。
茶花図鑑にあたってみると、一重咲きの「薩摩白」あるいは「龍潭寺白」に近いようです。茶席でよく見る祇園守でなかったのは、意外でしたが、むしろ、より純度が高さが感じられる品種でした。品種の見極めは、もう何輪か咲いてのお楽しみです。
さて、このムクゲは二、三年前、出入りの造園家に「純白種。できれば白の祇園守の苗木を取り寄せて、庭の手入れがてら、植えてほしい」とリクエストしていたものです。いつ咲くか、と待ち侘びていた白ムクゲでした。昨季はまったく花を付けず、今季は二本の枝葉の先端に僅かに花芽があり、せっせと水やりしながら、少しづつ膨らむ蕾を見守ってきました。
初咲きに促されるように、数日前までは全く出ていなかった花芽がいくつも萌しておりました。いよいよ、うれしくなりました。楽しみです。
茶道遠州流では、白いムクゲを「遠州木槿」と言い慣わしているそうです。小堀遠州が好んだ木槿の品種があるのかと思っていましたが、どうやらそうではなく、純白のムクゲを遠州流ではそう称するようです。ちょっと我田引水のようでもありますね。そう言えば、遠州流による某茶会でのやりとりが思い出されました。
「ムクゲは祇園守です」という亭主に対して、遠州流のベテラン茶人が「あなたも遠州流でしょう。祇園守なんて言わずに、遠州流らしく遠州木槿とおっしゃったら」と言葉の礫を投げていたのです。
ムクゲは夏を代表する茶花。一輪、一種でも楚々として茶席締める真の花の品格を持ちますが、純白の真の花にどんな可憐な花を添えるか。選び花器とともに、茶人を苦しませもし、楽しませもします。うまく、投げ入れができたら、またご報告いたします。