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「シアターAoi」贅沢な301席
メニコンが名古屋・千種駅近に
最新の照明、音響、舞台機構
公立並みの貸出料へ

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 客席301席とコンパクトながら最新の照明、音響、映像、舞台機構、オーケストラピットまでもつ劇場が、名古屋・千種駅近くに完成しました。コンタクトレンズ大手メニコンが、本社(名古屋市中区葵3丁目)の隣接地に建てた新社屋ビルに設けた「メニコン シアターAoi(あおい)」です。素敵なエントラス、カフェがある上質感ある民間劇場が、公立ホール並みの料金で借りられそうです。

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 メニコン創業家2代目の田中英成会長が主導し、新社屋ビルに合わせて建設しました。田中さんは「あおい英斗(えいと)」のペンネームで自社制作のオペラやミュージカルの脚本・作詞も手がける異色の企業家。田中さんが代表理事を務める公益財団法人「メニコン芸術文化記念財団」が運営します。2023年度内に16の公演を主催する予定です。2023年4月6日にあった完成式では、川浦康嗣社長は「名古屋の人々に質の高い文化・芸術に触れる機会を提供したい」と話しました。

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 同財団の担当者は、貸し出し料金については「民間の劇場ですが、市や県の同規模のホールと同じような水準にする方向です。ホームページで6月末をめどに公表します」と方針を明らかにしました。公共ホールにはない上質感のある同劇場が公立ホール並みの料金で借りられるのは、大変魅力的です。

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 田中さんは「名古屋にオペラや舞台を上演できる劇場は大規模なものしかなくコストがかかる。(作り手を)応援したいという思いでつくった。さびれてしまった車道・広小路のランドマークとして、地域の振興にも貢献したい」と語り、気軽に立ち寄れるカフェやエントランスホールでは無料のCG上映も行います。名古屋の新たな芸術文化の発信拠点、車道・千種駅界隈のにぎわいスポットとして注目を集めそうです。

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 同劇場はJR中央線・名古屋市地下鉄の千種駅から徒歩4分、広小路に面して、好立地です。地上9階、地下1階の複合ビルにオープン。ビルの1階から6階までが劇場施設で、2階、3階部分が客席になります。客席数は301席。舞台は間口9.6メートルとちょっと狭めですが、高さは6メートル、奥行きは9.5メートルで昇降する可動壁により広げることができます。可動壁を開け放てば、舞台の奥にある楽屋、出演者エレベーターにも直結。楽屋やエレベーターを舞台空間に取り込む演出ができそうと、みました。オーケストラピットを設けることができ、客席への張り出し舞台や花道などの演出も可能といいます。

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 注目は舞台中央にある比較的大きな「迫り」。4t級程度のトラックが乗り入れられる1階楽屋搬入口と直結し、大道具搬入迫りを兼用してます。舞台袖が狭いハンディがありますが、工夫次第でスムーズな舞台設営やユニークな舞台転換、楽屋と舞台の境目をなくした大胆な演出ができそうと見ました。IMG_9831.JPG

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 また、プロジェクションマッピングを舞台背後からスクリーンに投影することができます。式典では「光の切り絵作家」酒井敦美さんの原画「御感(ごかん)の花」をモチーフにした鮮烈なCG作品が上映され、100人の招待者や報道陣の目を奪いました。

 ピンスポットを除く全ての照明にLEDライトを使用。電気料金の高騰で頭が痛い問題となっている劇場電気代の節減効果が見込めます。音響は、音楽の生演奏や演劇、落語など、さまざまな用途に応じて響きをコントロールできるYAMAHAの最新音場支援システム「AFC Enhance」を導入。ピアノは、ジャズピアニスト小曽根真さんが選定したYAMAHAの最高峰グランドピアノCFXが入りました。

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 完成式典ではフルートとピアノの合奏が披露。豊潤なピアノの響きと、室内楽の繊細な響きを違和感なく楽しむことができました。田中さんは「客席のどの位置でも自然の響きが楽しめる」といい、クラシック音楽にも向いていると感じました。

 メニコン芸術文化記念財団が初年度事業費2000万円をかけて主催する事業16プログラムのラインアップが決定。4月18日にプレイベントとして、劇作家・演出家の平田オリザさんの講演「新しい広場を作る-地域における劇場の役割-」を行います。5月14日には、劇場機構を使いこなすトライアルイベントとして、芸術監督に就任した山口茜さん主宰の劇団「サファリ・P」が作品「透き間」を上演します。グランドオープンを迎える7月には、こけら落とし公演として宮川彬良さんが作曲したオリジナル歌劇「あしたの瞳」を上演します(19日~22日)。そのほか、演劇、人形劇、音楽、ダンスなど多彩なジャンルの作品が並び、劇作家・演出家の天野天街さんや舞踏家・演出家の浅井信好さんらの作品が上演されます。

 田中英成さんは、1959年生まれ。日本初の角膜コンタクトレンズを開発した創業者田中恭一を父に持ち、眼科専門医を取得後、メニコンへ入社。コンタクトの定額制サービスを考案し、市場に導入させるため2000年に若干40歳で社長就任。業績をV字回復させ、東証及び名証1部同時上場を実現しました。「メニコンカップ」日本クラブユースサッカー東西対抗戦(U-15)を20年以上支援し、若手育成に貢献。
 プライベートでは脚本や作詞を手掛け、代表作ラジオミュージカル「本能寺が燃える(2011年ギャラクシー奨励賞受賞・JFN賞企画部門大賞)」などオペラ・ミュージカル3作を制作。各方面で将来性のある若い音楽家や俳優の支援も行なっています。

 

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 2012年には本社別館に110席の室内音楽ホール「HITOMIホール」を開設。一般社団法人として出発したメニコン芸術文化記念財団は新劇場の完成を機に、公益財団法人として認可され、HITOMIホールと新劇場の2館を運営することになります。公演・イベント制作を手掛ける子会社メニコンビジネスアシストもあり、若手実演家の育成から、公演企画・展開、劇場・ホール運営までメニコングループで運営する体制が整ったようです。

 舞台芸術を支援する名古屋の企業家では、CoCo壱番屋創業者の宗次ホールオーナーの宗次徳二さん、若手音楽家のコンサートや指揮者コンテストなどクラシック音楽を支援する公益社団法人山田貞夫音楽財団のダイドー社長、山田貞夫さんが有名ですが、2人が子供のころ苦しい暮らしの中で聴いたクラシック音楽が人生の励みになって、実業界で成功後、音楽の支援に乗り出したのに対して、田中さんは父が始めた事業を大きく成長させる一方で、若いころから志していた創作活動を行い、自前のホールと劇場の2館を持つまでになった企業家文化人です。芸どころ名古屋を盛り上げる名物企業家3人男です。

 

(WEB茶美会編集長 長谷義隆)