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99歳祝い圧巻の満艦飾
神谷宗雅さん白寿の健啖
名古屋・興正寺「開山忌」茶会

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裏千家神谷柏露軒の神谷宗長舎(そうちょう)さんが2023年3月11日、名古屋・八事山興正寺の「開山忌記念茶会」で濃茶を担当し、茶どころ名古屋の最長老茶人である母、神谷宗雅さんの白寿(99歳)を祝う満艦飾の趣向で、茶客を驚かせ、圧倒しました。

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名古屋有数の文教、住宅地の八事の地に広大な寺域を有する興正寺。江戸前期の1686(貞享3)年、真言宗の本山「高野山」から来た天瑞圓照(てんずいえんしょう)和尚が草庵を結んだことに始まります。1688(元禄元)年、尾張藩2代目藩主・徳川光友公の帰依を受け、尾張徳川家の祈願所となりました。開山忌記念茶会とうたう以上、信仰の地「尾張高野」としての歴史を踏まえた趣向があるのかな、と思っておりましたが。そんな思い込みは、寄付に入った途端、放念すべきだと感じました。

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寄付は、畳、床の間、ところ狭しと並ぶ展観道具がずらり。千利休が名作と見立てた楽焼七種の「長次郎七種」の歴代楽焼の写しに始まり、濃茶の主道具、炭道具がおびただしく飾られ、説明役の茶道具商が座る場がなく、室外の廊下に立って、求められれば説明に及ぶほど。端正な筆書きの会記は、奉書紙が4枚連なる長大さ。一席の会記としては、最長でしょう。裏返せば、最多の茶器出陳を物語ります。

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限られた時間では到底見切れない満艦飾の寄付。このうち、異彩を放ったのは茶入でした。瀬戸後窯の「源十郎窯」。銘・緑です。古瀬戸茶入の風格はないものの、遠州好みを思わす瀟洒な造形です。裏千家茶道を主調にしつつ、流儀を離れて、席主の好みの高さがうかがえる逸品です。

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宗雅さんの白寿を祝って、裏千家前家元15代、鵬雲斎から贈られた茶杓などもあって、お祝い気分を盛り上げます。鵬雲斎は今年、満100歳の現役大宗匠。次の間には99歳の気迫の一行「安穏無事」もかかって、その元気シャワーに浴する思いです・

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 さて、本席の床は、和漢朗詠集断簡「平等院切」でした。源頼政の筆と伝えられる平安の古筆です。元は関戸家が旧蔵。唐物の胡銅花入に、シデコブシと白玉椿を投げ入れて、なるほど濃茶の格調です。

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 神谷さんは、十文字形の異形の釣り釜に、紹鴎棚を取り合わせ、サラサラと濃茶をてずから点てます。当意即妙、立板に水の説明で、茶会はさくさく進行して行きます。

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 そうこうするうち、興正寺開山さまではなく、水屋から今日のご本尊が登場。神谷宗雅さんです。今も教室では教えをしているそうですから、達者なものです。出された濃茶をズズッと、美味しそうに飲み干す健啖ぶりは、茶の功徳そのものを体現しているよう。孝行息子は「母親が元気でいてくれるから、今日のようなお茶ができる。ありがたい」と感謝の弁を繰り返しました。

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 さらに元気な鵬雲斎とそのご母堂にあやかっての道具組みなど、入念な茶略が巡らされてました。長大な会記にすら載せないサプライズを席中で披露するなど、ため息が出るほどサービス精神。

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「これで、開山忌ゆかりの趣向がどこかにあれば、もっと茶会に奥行きが出ただろうに」とは、言わずもがな。質量とも圧巻の道具組はこってり、味わい深く、茶家の蔵の深さに圧倒された一会でした。

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