見る・遊ぶ

見る・遊ぶ

一双茶入「寒山拾得」が精彩
森宗美さん重厚、飄逸な濃茶
熱田さん弥生の又兵衛席

IMG_5265.JPG

 二つぞろいの一双の茶入を初めて拝見しました。2022年3月15日に開かれた名古屋・熱田神宮献茶会の濃茶席。席主の裏千家森宗美さんが、家蔵の古瀬戸茶入一双の銘「寒山拾得(かんざんじっとく)」のうち、一つを寄付に飾り、もう一つを席中で使い、席を引き締めました。

IMG_5260.JPG
 寒山拾得は中国唐時代の伝説上の風狂の2人の僧。寒山が経巻を開き、拾得がほうきを持つ図は、禅画の画題です。寄付に飾ったのは、見るところ、破風窯。席中は、つくねを串刺しにしたような異形の渋紙手。串刺し状の姿を経巻に見立てて「寒山」と銘名した円能斎のエスプリが光ります。屏風、掛け軸、茶碗、棗、茶杓では一双はよくありますが、茶入の一双は超レアでしょう。単体では異風にすぎる茶入が、茶人の見立てにより、出世しました。

IMG_5266.JPG

 愛知県半田市にお住まいの森宗美さんは愛知、三重、岐阜、静岡の東海4件12支部で作る裏千家淡交会東海地区の地区委員長を令和4年から務めるベテランです。
 3年度はコロナ禍対応ということで田舎家茶室「又兵衛」での濃茶は、格調だけでなく田舎家らしい侘びてどこかおどけた風情を醸すことが要求され、茶人の力量が問われる難関茶席です。この寒山拾得の一双茶入は、草庵の茶の侘びと田舎家の茶の風狂を二つながらに満たす、うってつけの千両役者だと拝察しました。
 元来きれい、美しい茶器を好む方ですが、この日は地区委員長として初めて、格式ある熱田さんの濃茶席を担当するとあって、茶略を練ったことがうかがえる重厚、飄逸な取り合わせでした。

IMG_5267.JPG
 寄付は別棟「六友軒」。床に桑名の画僧・帆山花乃舎の「雨中桜花之図」を掛けて、本席・又兵衛の床は江戸初期の大徳寺住持・天祐紹杲(てんゆう しょうこう)の横一行「夢」。禅者がこの一字を揮毫(きごう)するのは「人生は畢竟(ひっきょう)夢なり」との含意ですが、天祐禅師の小書きには「諸仏諸祖 夢出夢入 一切衆生 夢生夢没‥」とあり、桜花を巡る夢幻能のようなシュールな詩的な世界観が感じられました。

IMG_5268.JPG
 追善茶会によく掛かる「夢」一字の墨蹟とは違った意味合いで、森さんが桜を巡る幻想世界、そして人の世の無惨をつくづく感じさせる世情を憂える心を、この軸に託したのではないかと感じました。
花は、紅の侘助椿にあえて開花前の雪柳の枝を楚々と添えて、南蛮ちまきの花入に投げ入れ。


 展観、席中の茶器は、雅味深い釘彫伊羅保茶碗、天正与次郎の尻張釜など、侘び茶本流をゆく取り合わせの中に、千宗旦に勘当されたとされる長男の閑翁宗拙(かんおうそうせつ 1592~1652年)の茶杓、夭逝した玄々斎の息子、一如斎玄室(1846-1862年)の在判蓋置など珍品を配して、配置の妙が茶道通を唸らせます。閑翁宗拙の茶杓には直径2ミリほどのまん丸の蟻通しの穴が開いており、なかなかの曲者です。

 点前座は、田舎家に似つかわしい、どこかひょうけた唐津焼の手付水指。人を食ったような銘「寒山」の茶入が呼応します。

IMG_5269.JPG

菓子はきよめ餅製の銘「春の野」。森さん好みの美しくも繊細なきんとん製です。
森さんのお孫さんがこの日、茶席デビュー。高校を卒業して進学を待つ若者です。規矩通りのお点前の初々しさが、茶席に清風を吹き込みました。

IMG_5258.JPG
 千秋閣でのウロコヤ・横井一雄さんの薄茶席は、後日レポートします。

@sabiejapan.com