見る・遊ぶ

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満艦飾「ひな祭り茶会」
神谷柏露軒さん吉祥会
桃花の宴に託す熱き願い

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薄茶一服なのに、見切れないほどのお道具の数々。華やかな満艦飾の「ひな祭り茶会」に、席主のお茶に賭ける熱い思いがにじみました。裏千家柏露軒の神谷宗舎長さんが2022年3月1日、名古屋美術倶楽部で開いた吉祥会弥生釜。コロナ禍第6波の峠は越えたとはいえ、なお高止まりの感染状況下、席主の強い決意があって開催に漕ぎ着けました。

「やめるなんて言わないよね。神谷先生から、そんな電話が毎日かかってきました」。吉祥会主催の美術商かね吉の経営者が舞台裏を漏らしました。「開催について悩みましたが、私どもも思いきりましたよ」
コロナ禍での茶会は舞台裏では、できるのか、できないのか、するならどう対策するか。そんな不安と悩みが渦巻きます。そんな葛藤がもう2年以上続き、何度も襲いかかるパンデミックの大波にもまれて、茶会中止が広がりました。名古屋を代表する茶家の一人、神谷さんはこんな時期だからこそ、お茶の灯火を掲げるべきだとする信念を貫いてきました。

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裏千家茶道の本道を踏まえつつ、茶家4代にわたって収集した膨大な古今の茶器を自在に取り合わせ、この日も桃の節句の趣向を重層、多角的に積み上げました。

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道具席床は、江戸琳派の鈴木其一「ひいな 蛤籠」図。薄茶一服ながら、春に因む炭道具が並びます。「桃花鳥」とも表記する朱鷺(トキ)の羽箒、山桜の樹皮を巻いたかんば巻火箸、断面に竹と桜を彫った銀製「相生鐶」などです。こんな華やいだ炭道具セットは他に、類を見ません。

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茶杓2本、展観したメインの徳川斉荘作・歌銘「桃の花」、席使いのサブ岡田野水作・歌銘とも、共筒・共箱の完品。「盃とともに流るる桃の花‥」の数寄藩主・斉荘作の祝歌に、名古屋の町方茶人・野水作は「かつ見つつ千歳の春は過すとも‥」と春の愁を添えます。これを受けて、本席床には裏千家11代玄々斎筆の一行「皎如玉樹臨風前」。杜甫が美少年の清々しい酒の酔いっぷりを歌った漢詩の一節です。茶杓の歌銘が催す陰陽の感興に、唐詩が共鳴して、この日のご馳走となりました。

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発色、絵付とも麗しい彦根藩窯・湖東焼の花入に、春を告げるマンサクと椿「四海波」を添えて。床の間の左右、琵琶床には江戸時代の嫁入り道具「百人一首色紙帖」、違い棚下には時代のミニひな壇飾りと、もろもろ総飾り。あちこち飾ってともすれば求心力を欠きがちな大空間を、華やかさと渋さが織りなす美意識が大黒柱となって本席床、脇床、点前座、席使いの茶碗、煙草盆など隅々まで束ね、ひな祭りを巡る美のワンダーランドに迷い込んだような気分になりました。

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桃の節句に浮かれるだけでなく、「3・11」を前に福島県相馬地方で焼かれた相馬焼の水指、茶碗を配して、失われた伝統に視線を注いで、東日本大震災の被災地への思いもにじませます。席主のバランス感覚、目配りは巧みでした。

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吉祥会次回は5月1日、表千家柴田紹和さん。当日券(1500円)あり。