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驚異の"hina doll展"
掌の「煙草盆」「台子飾り」
尾張徳川家の雛まつり展

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名古屋市東区の徳川美術館で2022年2月5日に始まった「尾張徳川家の雛まつり」展。第35回を数える同展は江戸時代から昭和まで、尾張徳川家のお姫様ためにあつらえられた雛人形や婚礼調度のミニチュアである雛道具が一堂に飾られ、数ある雛まつり展の中でも最もゴージャスなhina doll展です。
WEB茶美会では、雛道具のうち茶の湯と直結する喫煙セット「煙草盆(たばこぼん」と「台子(だいす)飾り」に注目してみました。大名道具の雛道具は、御殿の暮らしが反映、克明にミニチュア化されていて、興味深いところです。

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さすがに徳川御三家筆頭のお家。手のひらに乗るサイズながら、造形、蒔絵、細工とも実物かと見違うほどの精巧さです。台子に至っては、金や銀、唐金製の皆具(風炉釜、水指、杓立、建水、蓋置)だけでなく、梨地に金蒔絵を施した台子、さらに炭道具や茶碗一式などを取り揃えた雛道具があって、目を奪われます。

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煙草盆は、刻みたばこを煙管で吸う、という日本古来の喫煙形態にあわせて用いられてきました。煙管での喫煙には、火入れ、吸い殻を落とす灰落(おと)し、刻みたばこを納める器といった道具が必要です。これらをまとめておくために使われたのが煙草盆です。


茶の湯のフルコース「茶事」では、緊張を伴う濃茶が済んで、薄茶ではお客にリラックスしてもらおうと「一服どうぞ」の心で、煙草盆が出されます。実際に煙草を吸うことはなく、現代では流派によっては煙管や莨壺(たばこつぼ)を省いてますます簡略化され、お手軽化に拍車がかかっていますが、一方で煙草盆の取り合わせ、バランス感覚は、亭主の数寄ぶりを測るバロメーターにもなっています。茶席の脇役とはいえ、なかなかゆるがせにできません。

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現行の大寄せ茶会では、正客の座る場所を示す小道具としても置かれることが多いのです。地域によっては煙草盆を略するところもあるようですが、名古屋の薄茶席では必須とされます。大名道具では銀製など手の込んだ金属製の灰落しは、侘び茶では竹を切った「灰吹き」に代わっています。

さて、明治・大正までは暮らしに根付いた煙草盆ですが、紙巻きたばこの普及によって、煙草盆は廃れてしまい、実はどのようにして制作され、販売されていたのかといったことは、詳しく分かっていないようです。その点、ミニチュアとはいえ、尾張徳川家の雛道具は保存状態がよく、いわばその時代の嫁入り道具のトレンドのタイムカプセル。木工、漆工、金工といった幅広い分野の職人たちの手技が凝縮され、高い技術力が示されているというだけでなく、煙草盆や台子のトレンドの変遷がわかるのかもしれません。


一方、台子は書院の茶では欠かせないグッズ。上使接待や殿様、姫様など貴人への供茶に用いられました。柄杓も台子飾りではお決まりの「差し通し」になっていて、目が行き届いてます。IMG_4963.JPG

現在では皆具を使う場合や、献茶式でもないと、台子飾りを見ることは少ないので、雛道具の煙草盆や台子飾りから、殿中茶の湯に想像をめぐらせるのも一興です。

会期は4月3日まで。月曜休み。大人1400円。

https://www.tokugawa-art-museum.jp