見る・遊ぶ

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お伊勢・熱田さん「初詣気分」
豊国神社献茶会の初釜
庄司宗文氏が「濃茶続き薄茶」

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「急ぎまするので、続いてお薄をいただきく」。客側から所望があった場合に行われる「働き」の点前「濃茶の続き薄茶」。略して「続き薄」。名古屋・中村公園の公共茶室を会場に開かれている豊国神社献茶会はコロナ下、年に何回か「続き薄」の月釜が催されるようになりました。
2022年1月16日開かれた初釜は、同献茶会会長の裏千家庄司宗文さんが担当。神さま・神社ものをこよなく愛する席主らしく、お伊勢さん、熱田さんに参拝し「初詣気分」を味わってもらう取り合わせです。
通常は薄茶2席がかかる献茶会ですが、初釜と開炉などは特別会として"一席ニ茶"の続き薄。一度で2席分の茶趣が味わえる趣向です。

この日は、常に使う広間席「桐蔭」を寄付・展観席とし、ここに濃茶、薄茶、炭道具を全て飾りました。

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障子を開け放った広間に、床前から時計回りに逆L字型に道具展観席を設けて、客は一方通行で展観道具を拝見してゆきます。コロナ禍第6波の急拡大を受けて、換気、通風を図るやり方です。

狂言和泉流の野村又三郎師門下、狂言好きの席主らしく、寄付に名古屋狂言界の先人で独自の画風で知られる伊勢門水(もんすい)翁の一対の絵軸「翁」「三番叟」をかけて、この日の趣向を暗示します。展観道具は、楽了入の「黄釉大亀」香合、銘「喜雲」の瀬戸芋の子茶入、銘「恵比寿」の徳川宗春公の茶杓、朝鮮青磁狂言袴の茶碗など、おめでた、吉祥尽くし。炭斗は、博多・筥崎宮神折敷と、神社ものを添えて。

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中でも宗春公の茶杓は珍品です。現存確認されているのは数本しかなく、庄司大虚庵に伝わるこの茶杓は名古屋茶道界では有名な一品です。
緊縮、倹約を掲げた時の将軍徳川吉宗に対して、おおらかな開放、積極経済策を打ち出して名古屋繁栄の礎を築いた殿様です。自ら奇抜な装束をし、藩祖以来禁止されていた遊郭の設置を認め全国から遊女が集まり、芝居小屋が立ち並び江戸、上方の役者が流入。「芸どころ名古屋」の祖と言われるカブキもの。幕府の怒りをかって、幽門蟄居。死後は墓に金網をかけられたという非業の殿様ですが、茶杓は無節で懐深く、ゆったりした作行きです。

宗春公は先年、徳川美術館に遺愛の水指が出展され、その由緒書から、長い蟄居の後半生も近習の者や僧侶たちと茶の湯を楽しんでいたことがわかりました。この茶杓は歴代藩主が祀られている菩提寺ゆかり。いつの時代か寺から流出したと見られ、伝世する宗春公茶杓は筒、箱の次第がほぼ共通、蟄居時代のものと推察されます。身は囚われても心は自由という境涯が感じられ、いつ拝見してもうれしいものです。

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本席は、庭を挟んで隣に立つ大正天皇ゆかりの記念館。待合に伊勢門水の息子の画家、伊勢関水(かんすい)の一対の絵軸「日月図」。戯画風の父門水の画風に対して、様式的な琳派風。大正天皇が皇太子時代に休息した行在所らしく、一段と天井が高い和室の床によく映っています。床前には、五色の布が付いた巫女が振るう神楽鈴が置かれ、初詣気分を醸します。

さて、本席床の間には、名古屋で数十年前切断された東常縁(とうのつねより)筆の古今集写本の断簡。二条皇后の「雪のうちに春はきにけりうぐひすのあふれる涙今やとくらむ」など春の歌4首が、室町時代らしい、ちょっとちまちました筆体で書写されています。東常縁は文明3(1471)年、連句の宗匠飯尾宗祇(いいおそうぎ)から古今和歌集に関する秘事口伝(ひじくでん)を伝授された武将です。

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花は、羽子板の羽根そっくりの実を付けた突羽根(つくばね)に曙椿を、古代中国青銅器を写した唐銅尊式に投げ入れて、初春を演出します。秋に実を付けるた突羽根を葉っぱがあるまま年越しさせるのは至難の業。よくある接着剤で葉っぱをくっ付けたのかと思いきや、「わが家秘伝」の保存法があるよし。見応えがあります。宗匠、次第に饒舌になって「突羽根の生えているところは、いっさい口外しない。一度誰かに話したら、みんな鵜の目鷹の目、荒らされてしまうから。生えていそうなところを目星をつけて、探しました。今は、岐阜県のある山奥で取ってきている」と苦心談。

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敷板に皆具を飾る一風変わった道具畳。続き薄のお約束では、薄茶を入れた茶器を飾って置くべきですが、お点前を拝見すると濃茶の点前が終了すると、あらら「続き薄」の点前は省略。残念です。続き薄でやるなら、点前も相応にやるべきではないでしょうか。茶匠のお席ではお点前はきっちり披露すべきではないでしょうか。

風炉先屏風は伊勢神宮古材に五十鈴川にかかる宇治橋、本宮社殿の図。敷板は熱田神宮古材。主茶碗は、昭和を代表する陶芸家加藤唐九郎作の豪快な志野茶碗、銘「白虎」。高台まわりの力強い切り回しは、桃山陶以上。藤九郎の名人ぶりが伺えます。両神宮ゆかりの茶碗も配して。

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薄茶は、十二支に因む愉快な茶碗が勢揃い。「可愛い」「キュート」「いいねえ」。女性客が歓声をあげます。席主は「干支の茶碗は12年に一度のお出ましでは気の毒。こういうふうなら、年に一度は登場できます」とほくそ笑んでおりました。

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 名古屋の月釜は今年から値上げ傾向にあり、豊国神社献茶会も会費が値上げ。当日券は3000円です。特に続き薄一席では、割高感は否めません。材料費高騰の折、菓子など経費がかさんでいますから、値上げは致し方ないのでしょうか。

次回は2月20日(日)。記念館は裏千家神谷宗節さん、桐陰席は宗徧流高山宗徳さん。当日券あり。