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奇想の「有閑煎茶」高取友仙窟さん 城山八幡宮献茶会の師走釜
善哉ほっこり 表千家村瀬宗又さん

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 茶どころ名古屋の師走を締めくくる城山八幡宮献茶会の月釜が2021年12月23日、名古屋市千種区城山町、城山八幡宮の茶室「洗心軒」でありました。京都・詩仙堂をイメージした2階の煎茶室では、賣茶流家元高取友仙窟さんが、クリスマスに因む趣向によりアール・ヌーヴォー、京阿蘭陀など異国趣味の器物を取りそろえ、明治・大正時代の「有閑煎茶」を現代に再現し、茶客を楽しませました。
 名古屋に家元がある賣茶流は、江戸後期の八橋売茶翁の煎茶道の流れを汲み、大正初年に初代髙取友仙窟が創流。 「優雅と格調と楽しい」を掲げる創設105年の名流。
当代は4代友仙窟さんは、コロナ禍で毎月「オンライン売茶忌」煎茶会を開くなど進取の気性に富みます。

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 会場は、元は豪商数奇者が名古屋中心部の納屋橋近くに作った隠居所。明治期の代表的な数寄屋建築で、関東大震災で被災した益田鈍翁が難を逃れ1年余り逗留して、名古屋の数寄茶人たちと茶の湯に耽った歴史的な遺構です。

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 高取さんの今回のテーマは、東洋と西洋の折衷とお見受けしました。猫好きなアール・ヌーヴォーの巨匠、スタンランの代表作「ヴァンジャンヌの殺菌牛乳」のポスターを表具して掛け軸とし、紅毛人物・南蛮船を描いた古伊万里の瓢形の花入に、中国渡来のキンカン、縁起のいい黄金ヒバ。花器の脇に綿の実を添えて。海外の新奇な文物が渡来する風情を床の間に演出します。

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 点前座は、ハワイ王国の王家家紋入りのハワイアンキルトを敷いた上に、煎茶道具一式を収納する唐物器局、ドイツの貴族の家紋入り黄銅製ワインクーラーを瓶掛けに見立て、重厚な取り合わせです。阿蘭陀焼の本歌と、その異国情緒を和様化した「京阿蘭陀」の焼き物を随所に織り交ぜて、ドーム兄弟製の擦りガラス製の色変わり茶托をアクセントに用いるなど、入念な趣向。

 中国の文人文化に憧れつつ、文明開化の時代を生きた明治・大正期の富豪たちを魅了したハイカラ金満趣味。煎茶が掲げる清風、清玩からいささか逸脱した感がなきにしもあらずですが、往時の有閑煎茶とはかくやと思わせる、珍奇な器物が満載です。賣茶流4代の収集の蓄積がなければ、できない取り合わせでしょう。

 ベネチア・カーニバルで使う仮面が正客が座る位置に置いてあり、席主の勧めに応じて着用。その心は、ここでは割愛しますが、仮面の男は風炉先屏風にあたる「炉屏」にも表現されており、さまざまな伏線が入念に張り巡らされています。
 菓子は、クリスマスにちなみ雪だるまをかたどった和菓子「雪団」。名古屋・大須の長寿園本店製。

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 お茶は京都・宇治の茶師上林家の分家が佐賀で開いた上林茶店の銘「通仙」。初代売茶翁の郷里が佐賀であったことが思い起こされる煎茶です。一煎目で雪だるまの頭部をいただき、二煎目で胴体を味わうのが煎茶流ながら、頭と胴を切り離していただくのはいささか抵抗があります。ごめんね、雪だるま君。

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 興に乗った高取宗匠、水屋に控えた奥様の静止もきかず、まさかの「仮面の男」に。「ネットの時代、これくらいやらなきゃ、話題にならない」と、なんとダブルマスクに。怪しすぎます。お茶目な宗匠です。

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 もう一つの茶席は、招月庵(9畳間)での表千家村瀬宗又さんの薄茶席。客は、4畳升床の小間の菓子席に招き入れられて、待つほどしばし、温かな白玉善哉が振る舞われ、体も心もほっこり。

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 練香のような昆布がふた粒添えられていて、これが絶品。名古屋・浄心の「こんぶ処いわた」製。菓子席には掛け軸など一切なく、少しさびしい感じですが、寒い中での温かなもてなしはひとしおです。

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 茶席は、寄付に富士の白雪画賛を掛けて「送り干支」の笠牛香合が飾ってあり、本席の一足早いお正月気分の建長寺素堂老師筆の「寿」一字の掛け軸、虎縞のような斑が出た「迎え干支」の竹蓋置と共鳴しておりました。蝋梅の蕾に紅白の椿が、迎春気分を醸します。

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 村瀬さんはホワイトボードに室礼の説明をマジックペンで書いて、筆談対応。声を失ったハンディから生まれた、耳が聞こえない、遠い人にも優しい茶会です。お茶をこよなく愛していることが窺えるにこやかな温顔が、茶席をさらに温めました。


 次回は、年明け1月23日(日)、初釜。担当は出雲を本拠に名古屋でも教室を開く三斎流家元森山宗浦さんが拝服席・協賛席を担当します。当日券あり。