見る・遊ぶ

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もの寂びた巧みな茶趣
「志ら玉」笑庵主が吉祥会師走釜
黄伊羅保 呼び継ぎの逸品

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 赤穂浪士の討ち入りをたたえた「義士釜」、華やかな「クリスマス茶会」、「稽古納め茶会」、「除夜釜」‥‥。何かと慌ただしい歳末、お茶のテーマはいろいろありますが、行催事に寄りかからない、しみじみとした師走らしい茶趣を醸すのは難しいもの。そんな、歳末の寂びた風情がよく出た茶会を、料亭「志ら玉」の笑庵柴山利弥氏が催しました。2021年12月5日、名古屋美術倶楽部であった吉祥会師走釜です。

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 寄付に浮田一恵斎の「寒月千鳥図」をかけ、志野織部の香合、千宗旦の門人で茶杓づくりで知られた 僖首座(きしゅそ)在判の「喫茶去」と朱書きされた棗。塗師は久斎。関宗長の門人だそうです。

 主茶碗は、呼び継ぎの黄伊羅保。二等辺三角形状に欠けた部分を、同類の黄伊羅保の陶片をはめ込んで金漆で繕ってあります。これほどうまく調和した呼び継ぎは珍しいでしょう。益田鈍翁を囲んだ名古屋の数寄者グループ「敬和会」の一員、山内飽霜軒の旧蔵だそうです。席主の見立ては「完器をわざと欠いて、見どころを作るため呼び継ぎにしたのかも」。そんな推量もなるほどと思わせる、茶人の作意が感じられます。

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 「金繕い」「欠け」「湯気」「温み」「迎え干支」がこの師走釜の主題、副主題で、それらがさまざまに取り合わされて、時々ウイットに富んだ機略に客は魅了されます。金直しがある席使いの無地唐津茶碗、堅田幽庵の茶杓銘「芝舟」、獅子が井戸を覗き込んでいる「一閑獅子備前蓋置」、温めたそば饅頭、かぶら絵のある魯山人作皿など菓子器は全て温めてあり、温みがご馳走です。

 

 天明平蜘蛛の釜の大蓋を開けると、わっと湯気が上がります。大蓋の片方を釜の縁に、もう片方を蓋置に掛けた景色は珍しく、一閑獅子備前蓋置へ自然と視線が注がれます。器に応じた即興の扱いが面白く、さすがに茶の湯巧者です。

 床の間は、小幅の小堀遠州、松花堂昭乗両筆の和歌の軸。略式大徳寺棒に軸を架けて、視線を下げておりますが、書院式の広く高い床の間には、いささか貧相にも見える感じも、席主の目論見のうちなのでしょうか。
 

 いい花が入っていました。口が欠けた美濃伊賀の花入に、冬枯れのキササゲの実に寒菊。
ゆく年の名残りを惜しみ、繕いのある茶器を愛おしむ、そして、近づく新年の足音。侘びた師走釜の感興に浸ったひとときです。
次回は1月30日。当日券あり。