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大寄せ 怒涛の3連チャン
裏千家神谷柏露軒氏
木曜会師走釜でトドメ

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 わずか6日の間にがらっと趣向を変えて3度の大寄せ茶会の席持ち、そんな離れ業を裏千家の神谷柏露軒(宗舎長)さんが2021年11月27日〜12月2日の間に、茶どころ名古屋を代表する茶席3カ所でやってのけました。

 まず27日は、八事山興正寺で開かれた織田有楽斎没後400年記念茶美会第1回大茶会の薄茶席(耕雲亭)初日を担当。この模様は後日、当サイト「WEB茶美会』で詳報します。その翌28日には、約100年続く老舗料亭で、ほぼ全域が国指定重要文化財に登録されている八事・八勝館であった東海茶道連盟秋季茶会の田舎家薄茶席。連日の席主を掛け持ちです。同秋季茶会には、予定していた席主の体調不良により、代役を引き受けての登板です。茶美会大茶会の薄茶席をしながら、別働隊が八勝館で仕込みにかかり、神谷先生が室礼の監修に乗り込むという忙しさです。

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 29日には中国在住者とリモート茶道講習会をこなしたといい、さらに12月2日には、東海地方はもとより遠方からも目の肥えた茶道愛好者が集まる料亭・知ら玉月釜「木曜会」の席主を務めました。

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 大寄せ茶会は、主だった茶器だけで数十点。数ものの茶碗、菓子器などを含めると100点を超す茶道具を持ち出しての出張茶会となります。茶会には、テーマに沿った取り合わせを構想して道具組をし、実際に並べて見てバランスを見て、必要なら取り替える。器に映る趣向の花、菓子を決めて、一つひとつ茶器の欠けなどが生じていないか改める。会記を整えて、持ち出す茶器を荷造りし、会場へ搬入、設営。茶会が終われば直ちに箱詰め作業にかかり、撤収、さらに道具の陰干し、それぞれ箱に入れる収納、、、。もちろん、水屋道具、茶筅、炭など消耗品も整えておく。そんな膨大な作業が、一回いっかいの茶会には付きものです。

 マンパワーも欠かせません。検温する玄関番、受付、案内係、道具番、水屋、お運び、点前をする人と、裏方、表方のスタッフが必要です。時期が踵を接して居れば、季節感も重なり、テーマもだぶりがちです。有り余る家蔵の茶器がなければできない、たとえ茶器が夥しくあっても、時期が集中する3席掛け持ちは至難の業です。そんなことをやってのける茶人は、神谷氏のほかにいるとは思えません。
 コロナ禍で雌伏一年半、その反動があったとしても、無類の茶会好きで、体力、気力が備わっていなければやりこなせません。

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 さて、"3連投"最終日の木曜会は「雪」をテーマに「年の瀬」「送り干支(丑)」「彭祖(ほうそ)」をサブテーマにした室礼でした。袴付に疫病護符の色紙「胡漏難(ころな)退散」をかけて、寄付床には神谷氏の祖父・明日庵玄中筆の「待雪」の短冊、雪の結晶をかたどった刺繍表具がおしゃれです。菓子席に復古大和絵の森村宜稲「雪江群鴨図」、本席には裏千家9代不見斎筆の画賛「茶の湯には梅寒菊に黄葉‥」に、銘「巌の雪」の米禽の伊賀花入に、白玉椿に土佐みずきの黄葉を添えて。まさに賛を茶花で視覚化しました。

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 3代宗哲の彭祖棗、「集散常規願販同好(集散は常規なり願わくば同好に頒たん)」の蔵印がある平瀬家旧蔵の灰匙など見どころのある名品を交えて、 雪と師走の主題が、さまざまな茶器や主菓子銘「笹の雪」(川口屋製)によって、変奏されてゆきます。

大根の絵が珍しい御深井焼、十字高台の大ぶりの松本萩の唐人笛、ノートルダム大聖堂のステンドグラスをイメージした清閑寺焼、了入の火前印筒赤楽など、古今の珍しい茶碗が出され、茶席が一気に華やぎます。

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 ありがたいことに、薄茶2服目も供され、干菓子は神谷家の別号「孤葊(こあん)」製。「遠山」「薄氷」「粒石」の3種すべて、ベテラン門人熊谷先生が繁忙の最中に手作りした、出来立ての逸品です。再服の茶碗はシルクロードなどをモチーフにしたエキゾチックな茶碗を取り揃え、コロナ禍でも茶席で海外旅行気分です。

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点前座は、熱田神宮宮殿古材の風炉先がふるっていました。歳末によく使われる堀内長生庵好みの曳舟図ですが、丹塗が残る古材を外に、内側に金砂子を降りしきる雪に見立てた、雪中曳舟の構図です。侘びの中にゴージャスさがあって、目を奪われました。神谷家は父方の祖父が表千家長生庵の門人だった関係で、この風炉先があるとのこと。

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 会記は和紙3枚に及ぶ長大さ。流石に"3連チャン"最後ともなれば、入念さより即決、即断のスピード重視。テーマを決めて、連想ゲームのように思い浮かぶ茶器を組み合わせているかのよう。とにかく圧倒的な質・物量にモノを言わせた天衣無縫の道具組です。
 無類の茶好きの神谷先生でも、毎回自ら点前をしながらの席主務めは大変だったようで、木曜会終盤に伺うと、疲労の色が濃かったように拝察しました。

 コロナ禍宣言明けのこの秋、神谷先生の獅子奮迅は記録的。トドメは席主3連チャン。まことにお疲れさまでした。