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興正寺月釜が半年ぶり再開
下村宗隆さん、初祖西行庵へオマージュ
点て出し席も魅力的

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 名古屋屈指の名刹、八事山興正寺の月釜が2021年10月16日、コロナ禍が下火になり、半年ぶりに再開しました。今年度初の茶席を担当したのは、尾州久田流下村宗隆さん。この日は奇しくも、表千家から分岐した久田流を名古屋で受け継ぐ尾州久田流の創始者、西行庵下村実栗(みつよし、1834〜1916年)の命日。風炉の名残りの風情と、茶家下村家の初祖をしのぶ茶趣を、茶客は二つながら味わうことができました。

 興正寺の月釜は、徹底した感染症対策を施して、再開しました。時間指定の完全予約制で、客は本席から100㍍以上離れた普照殿一階に設けた受付を経て、隣の広い待合会場で集合。時間になると、係の先導で広大な回廊の中庭を歩き、そこから下足を脱いで回廊に上がり、本席の竹翠亭寄付へ。八事山に抱かれた数寄のワンダーランドの奥殿へ迷い込んだようです。

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 寄付の展観席は、名残りにふさわしい滋味深い侘びた茶器が並ぶ中で、菊と尾花の金銀蒔絵を内外を加飾した時代の大棗が存在感を放っていました。侘び一辺倒でなく、こうしたゴージャスかつさびた茶器を配することで、名残りの陰影が立体的になる。心憎い取り合わせでした。寄付掛けは月夜の砧打ち図。江戸時代中・後期の戯作(げさく)者、浮世絵師の山東京伝の肉筆です。

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 本席は、大徳寺の槐安軒川島昭隠老師の堂々たる一行「昨夜一聲雁」。この禅語は対句があって「昨夜一声雁 清風万里秋」。残暑が10月になってもなお続くこの秋、昨夜一群の雁が渡って行ったのを聞けば、暑い中にも朝夕は清々しい風が吹き、秋は深まっている。そう解釈すると、誠に時季を得た軸といえましょう。

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 風趣豊かな秋の千草を、仙叟・宗全合作の宗全籠に投げ入れて。この宗全籠は、名古屋の旧家・神戸家旧蔵の宗全籠に「伯仲す」と、下村西行庵が箱書きしていて、興味がそそられます。

 宗旦好みの四方釜を鉄風炉に掛けて、道具畳の中央に置く「中置」が名残りの気分をだします。出雲焼楽山窯の瓢形の小振りの水指が、とぼけた味わい。長岡空味の作です。

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 主菓子の銘「山里」は、席主が会記ヅラでは分からない隠れテーマ、下村西行庵へのオマージュでした。西行庵が憧れた西行法師の和歌「鹿の音を垣根にこめて聞くのみか月も澄みけり秋の山里 」から、銘を取った両口屋是清の羽二重製です。

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 本席の書院次の間の床には、下村西行庵の「禅は○ 我はこがね色の○ 」の自画賛がかかり、茶・菓が供えられておりました。仙崖のような禅味、滑稽味に満ちた西行庵の茶境がよくうかがえる一幅と拝見しました。

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 名残りの風情に、幕末から続く茶家・下村家の誇りとご先祖を敬愛する気持ちを添えたこの一会。宗隆宗匠の茶道精進ぶりが好ましく、水屋に遊びにきた2歳の坊やがちょっと顔見せ、微笑ましい一コマでした。

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 興正寺月釜は、茶席担当の女性職員による「耕雲亭」の席が、漏れなくついており、お得感があります。この日は、北大路魯山人の書に秋の花三種生け。煎茶道具を見立てた花入が軸と花を引き立てていました。立礼、点て出しの気軽な薄茶ですが、吟味した干菓子、お茶で、とても得した気分です。

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次回は12月18日土曜日、松尾流村瀬玄之さんが担当です。

茶券・薄茶2席1500円。受付時間9時〜14時。予約・参加時間は電話=052(832)2801=へ。