見る・遊ぶ

見る・遊ぶ

老舗「葉月会」茶会2年ぶり再開
志ら玉笑庵主、風炉名残りの王道
瀧田宗侑さん五輪ピリ辛の茶趣

IMG_3370.JPG

IMG_3374.JPG 

 創設52年の茶道愛好家の親睦・研さん団体「葉月会」(会長・神谷昇司さん)が2021年10月10日、名古屋・上飯田の茶懐石志ら玉で、神無月茶会を開きました。一昨年の50周年記念茶会からコロナ禍の中止、延期を挟み、2年ぶりに再開となった恒例茶会。従来の夏季の朝茶を秋に移しました。再開を待ちかねた会員をはじめ多くの茶数寄で終日賑わいました。

 濃茶席は、名古屋遠州流の重鎮、志ら玉笑庵主の柴山利弥さん。作陶家にして「綺麗さび」「本格のさび道具」をこよなく愛する席主です。風炉の名残りの時季に好んで用いられる、ぶち割れの茶碗など大やつれの茶器はあえて外して、茶器の銘や風情で風炉の名残りを惜しむ取り合わせです。
 室町時代前期の禅僧、養叟の珍しい書状に竹の桂籠に秋の千草を投げ入れた床の間は、深まる秋に人の温みが恋しいこの時期の風情を漂わせて、さすが茶巧者の室礼です。
 寄付には、奥高麗に勝るとも劣らぬ瀬戸唐津。超希少な熊川手の名碗を惜しげもなく出品、目の肥えた茶客のため息を誘いました。

IMG_3368.JPG

 瀬戸唐津は朝顔のように開いた平茶碗が多いのに対して、本手瀬戸唐津はやや深い手を指しますが、包み込むような熊川形は他に類を見ない珍器でしょう。

 風炉釜は、宗旦好みの九兵衛造四方釜を与次郎作の鉄欠け風炉にのせて、敷瓦は寸松庵織部瓦。志ら玉さんの名残りの時季の鉄板取り合わせですが、年々歳々、いいなと感じる定番セットです。
 柄杓掛けした朝鮮唐津の種壺水指も珍しく、桃山時代の唐津・帆柱窯のものだそうです。鉄釉と白濁した藁灰釉を交互に柄杓で垂らして、肥瘦を描く文様はあたかも抽象絵画のようです。杓掛けはやりすぎると、民芸調になって、こうるさく感じるところですが、程よい塩梅。

IMG_3365.JPG

 本格派の名残りの取り合わせの中で、ちょっと気になったのは、銘・テーマのダブりです。まず女郎花。寄付の田中訥言の女郎花図、瀬戸瀧浪手の茶入の銘も女郎花。もう一つは白菊。会記には載っていませんが、香木の銘は白菊(なんと、かの一木四銘の名香です)。一方、きんとん製の主菓子の銘も白菊。席主はどんな意図を秘めていたのでしょうか。取り合わせから推測してみましたが、特段の意義は不明でした。上手の手から水が漏れる、ではありませんが、やはりダブりはやはり避けたいところです。

 名残りの正調をゆく濃茶席に対して、薄茶席は「キッチュ」「キワモノ」の誹りをどんとはねつけ、ピリ辛、超個性派の一会と対照的でした。

 席主は宗徧流の瀧田宗侑さん。様々な高麗茶碗写の作陶に励み、独創的な書画を描く才人。一方で、スペイン舞踊の世界にどっぷり浸かり、フランメンコシューズの名門メーカーの経営にも携わった異色の茶人です。

IMG_3381.JPG
 寄付には、幼児書きのような素朴な画賛「かがやく日本」。「マラソン校長」で知られる日比野寛の書です。アフリカ土産の黒檀風の容器を見立てた香合も置かれ、どうやら、東京オリンピックをテーマにしたプロローグのようです。

 IMG_3387.JPG

IMG_3392.JPG

 

 葉月会は予定通りなら7月開催。オリンピックに照準をあてた取り合わせが、コロナ禍の感染拡大によって10月開催にずれ込み、時期を逸した感がなきにしもあらずですが、このテーマでやり切るのが席主の度量。東京オリンピック後日談に仕切り直した茶会はいかにと、ワクワクするような期待を胸に、席入りすると、床の間に、「一」の大字の大幅がデーン。一本足打法の不世出の名バッター・監督の王貞治さんに揮毫を直々に頼んで筆を取ってもらったという、席主苦心の一幅です。五輪文様の表装もよろしく、スウェーデン産水指には月桂樹を巻いたり、出来損ないを賞玩された「與吉落とし」茶碗、モロッコ土産の菓子器、インド製の建水など、すったもんだの末、なんとかやり切った東京五輪に因む茶器、趣向を様々配して、茶客の感嘆、笑いを誘いました。

 

 自作の茶杓の銘は「蜃気楼」。女性蔑視発言で会長を退いた森喜朗氏を想起させる平仮名で「しんきろう」と、宗徧流家元に筒書きをお願いしたところ、漢字で「蜃気楼」になったそうです。キツい風刺の隈取が、あらら、蜃気楼のようにぼやけたようです。さりながら、茶杓に取ってはむしろ幸い。一回こっきりのキワモノ茶杓にならずに済みました。お家元の深慮と解釈すべきでしょう。

IMG_3379.JPG

 

 寄付の会記を拝見して、最も興味をそそられたのが主菓子「栗メダル 市長好」でした。表敬訪問した女性金メダリストの金メダルをかじって顰蹙を買った河村たかし名古屋市長の一件を、どう和菓子で表現してみせるのか。これは楽しみと、モロッコ産の食籠の蓋を開けたら、「栗メダル」ならぬ「ピンチヒッター」が収まっていました。

 まさかの展開。主菓子の急きょ差し替えは、東京五輪開幕式のドタバタ茶番を風刺したものでしょうか。席主は「思わぬトラブルがありまして」と、さらりと言葉をかわして、茶客をケムに巻きました。

 IMG_3391.JPG
 

  ともあれ、すったもんだの東京五輪をテーマにすれば、後日談茶会といえど、波風たとうというもの。「しんきろう」の一件と合わせて、思わぬアクシデントに見舞われたよう。多少の返り血は致し方ありません。東京2020オリンピック風刺の一会。キワモノに落ちんとする土俵際、ぎりぎり踏みとどまった席主の敬愛すべき稚気とウイットに、拍手を贈るべきでしょう

 IMG_3384.JPG

 IMG_3386.JPG

 葉月会名物の展観席は、幕末・明治期の文人、村瀬太乙の特集。
自由闊達、滑稽味をたたえた詩、書、画一如の太乙の軸・短冊18点を一堂に拝見でき、眼福でした。思えば、いっとき太乙再評価の運動は燻るだけで、不完全燃焼。不遇、低評価のうちに太乙収集に励んだ「お兄ちゃん」こと柴山恭佑氏の慧眼が、いつの日にか、もてはやされる日が来ると信じたいと思いながら、会場を後にしました。