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茶どころ名古屋 高らかに
名古屋城で初の「三英傑茶会」初公開の伝信長の書も

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 名古屋城の観光振興を通して茶どころ名古屋の発揚を図る「第一回三英傑茶会」が2021年10月3日、名古屋市中区の名古屋城内の御深井丸茶席など2会場で開かれました。 

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蒸し暑さが残るものの晴天に恵まれたこの日、コロナ禍の第5波がやっと収まって、お茶会再開を待ちかねた茶客が三々五々訪れました。各席とも、混むでもなく寂しくもなく、一席20人前後でゆったり、スムーズに行われました。

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 3人の実力派席主がアイデア比べ。愛知が生んだ三英傑の名を冠した個性豊かな茶席が展開しました。

 メインの信長席は茶席書院。席主の裏千家神谷柏露軒さんが、この日のために織田信長の書と伝わる横物掛け軸「龍穏眠」を某旧家から借り出して、床の間に掛け、茶客を驚かせました。
「龍穏眠」。龍、穏やかに眠る。乱世を平定する信長の覇気がみなぎるような堂々たる書です。「平信長」「織田氏之印」の落款・押印があリます。おそらく他に類例がない伝信長の横一行。真贋を超えて、江戸時代より続く名家に長く伝わったこの書を、三英傑茶会の第一回に初公開に漕ぎ着けた席主の力業に敬服するしかありません。

三英傑茶会らしく、ゆかりの逸品、珍品が随所に配されておりました。織田信長が定めた瀬戸焼の六名工(瀬戸六作)の一人「俊白(しゅんぱく)」作とされる志野茶碗、信長・秀吉・家康に仕えた武将茶人、佐久間不干斎在判の五郎棗、名古屋城天守閣の築城に当たった加藤清正の棟上げ式のエピソードを伝える莨盆、信長の石山攻めに活躍した鉄甲軍船に見立てた「方舟」水指など、故実と見立てをうまく噛み合わせた室礼は、さすがです。

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 席中は、マスクをしていても香る芳しい香りが漂っていました。
眺めると脇床の青磁香炉に、小指の爪ほどもあるかという香木が焚かれております。馬のしっぽの毛や、蚊の足のように細い香木を用いて香を楽しむ「馬尾蚊足」の聞香であれば、数十回分かと思えるような香木が惜しげもなく焚かれ、またびっくり。席主はこともなげに「伽羅です」。信長の天下の名香「蘭奢待」切り取りの史実を想起させる、香りのご馳走です。

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 神谷さんは、お点前を自らしながら、軽妙なトークで説明。「全員正客」の言葉通り、全て見どころのある茶碗で振る舞う大盤振る舞いで、居並ぶ連客を喜ばせました。
 席は書院と次の間を開け放ち、次の間の片隅に道具展観スペースを確保するウィズコロナ仕様の間取り。茶会本番後のわずかな時間しか、展観道具を拝見する余裕がないのが残念ですが、この時節致し方ありません。

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着座の位置を示す番号札が客座に置かれ、適度のディスタンスを保ちつつ、お客の収容数を確保するアイデアは、とても参考になります。

 
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 次に伺ったのは、書院の前庭に幔幕を巡らせて囲った陣中席仕立ての秀吉席です。名古屋城のシンボル、金の鯱鉾(しゃちほこ)を見上げる庭です。立礼棚には南鐐(銀)製の鯱釜がデーンと鎮座、金鯱に負けない立派な鐶付の鯱は異様な存在感があります。天守に鯱を載せて防火のシンボルとしたのは織田信長の安土城とされ、その後、秀吉の大阪城、家康の名古屋城に受け継がれた歴史を想起させる、釜です。

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 秀吉にルソンの壺を献上した呂宋助左衛門のエピソードにちなみ、呂宋籠の花入を用いたり、三英傑の茶道の功績顕彰に尽力した森川如春庵の手造り茶器を配したり、隠し味がきいた道具組は席主の尾州久田流下村宗隆さんの工夫。一見さらりとしながらもコクのあるものでした。

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この日のために、主催者は三英傑の家紋入りの幔幕を新調。茶会、とりわけ陣中席の趣向が引き立ちました。

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 さて、最後に向かったのは家康席。天守閣膝元の本丸に復元された本丸御「孔雀之間(36.5畳)」です。長さ10㍍超もの大きな床の間を、左を寄付、右を本席に見立て、その連結部分を丸卓に置き物を飾って繋いだ苦心の室礼です。

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 本席には、表千家の即中斎宗匠の一行「南山謡北山舞」。花入は、唐物写の木耳籠に秋の千草を見事に投げ入れ、初秋の風情を醸します。
席主の表千家谷口宗久さんは、掛け釘一本もないこの茶人泣かせのこの長大な床を見事に空間演出しました。

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 点前座は、木地竹台子に大倉陶園製の萌地金欄手皆具を取り合わせて、天下泰平の世を実現した家康に因む、すっきりした華やぎを表現しました 

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 3席に共通していたのは、いかに衛生的に茶や菓子をいただいてもらうか、などウイズコロナの時代の茶会のありようの模索でした。そして、戦前、名古屋であった大茶会「三傑会(さんけつ)」へのオマージュです。「三傑会」は昭和11(1936)年、当時先行していた東京の「大師会」、京都の「光悦会」に対抗すべく、織田信長、豊臣秀吉、徳川家康の三英傑とその時代の文化を偲ぶという大義の下に、徳川義親(よしちか)(尾州徳川家第19代当主)を発起人として結成され。同17年までつごう7回開かれた茶会です。その茶道遺産が今の名古屋のお茶に受け継がれ、名古屋観光の振興の一助とならんとする今回の三英傑茶会につながっているようです。

 信長、秀吉ゆかりの「猿面茶席」では、箏アーティスト浅井りえさん率いる箏曲千景の会が演奏。聞こえてくる箏の音色が風情を盛り立てました。

主催は金城会(事務局・岡江智子さん)。名古屋市観光文化交流局が後援。城内茶席を活用し毎月第1日曜日に開く月例茶会(月釜)「金城茶会」の特別版です。

次回は2022年10月2日を予定。今年12月5日(日)の金城茶会とも、問い合わせは、岡江さん=電話090(4490)8427、FAX052(8222)1122=へ。

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