清らかな蓮華茶会
ぎゃらり壺中天で茶会
現代アート展開催祝し
茶美会が添え釜
都会の街中のビルに、まるで蓮池に浮かぶような清らかな茶席が現れました。名古屋・伏見の「ぎゃらり壺中天」で 開催の『「Zone」Lika Oota + kt 展』のオープニングを飾る添え釜です。NPO法人茶美会日本文化協会が担当しました。普段は美術品展示の空間が浄福感あふれる茶席に様変わり。時代と切り結ぶ現代アート展に、ホッと息抜きできる潤いのオアシスを提供しました。
茶席での撮影は通常、原則不可ながら、この日ばかりは許可されました。インスタ映えする室礼に、来場者は感嘆しきり。画像、動画を存分に撮影し、SNSで発信しておりました。
添え釜の依頼を受けた茶美会日本文化協会の理事で有楽流の長谷義隆は、茶道具を置く点前座と客座とを仕切る結界、風炉先屏風の花屏風を常とは違う扇面形に開いて、花屏風を使って一幅の扇面画を描くことを思い立ちました。花屏風に仕込んである10本の竹筒に、蓮の花や大小の葉をリズミカルに投げ入れました。その様はあたかも風渡る蓮池のよう。さらに、大きな鉢を水指とし、青々とした蓮の葉っぱを蓋代わりとする葉蓋を浮かべ、蓮を立体的に演出しました。
滴を浮かべた蓮の蓋を取ると、内に渦巻文様の練り込みが鮮やかな真っ白な鉢は、満々とあふれんばかりの水をたたえています。蓮の泥池が清らかな神秘の池に変貌を遂げ、さらに柄杓で水を掬うと、水面が揺れ渦巻が水底に向かって螺旋を描くよう。この鉢は美濃の陶芸作家・安藤千都勢氏の練り込み磁器で銘「水の空」です。
点前は、茶美会日本文化協会の加藤おりはが担当。武家茶道、有楽流の優美にして凛とした点前を披露し、来場者を魅了しました。
現代から古代まで様々なジャンルの美術を扱うぎゃらり壺中天らしさを生かし、さまざまな陶芸作家の作品を茶碗や水鉢、菓子器に見立て、席主長谷義隆の感性を盛り込みました。主茶碗は、井戸茶碗に魅せられた名古屋の瀧田克氏の井戸茶碗、次客の茶碗は常滑の加藤真美氏の造形性豊かな大ぶり碗、、、。現代的でありながら、伝統的。桃山〜江戸初期の茶器を配して全体の重石とし、古い茶器を前面に押し出すのではなく、あくまで現代作家を作品を主役に押し上げようとする意図が功を奏し、新旧の境をとり紛らわす茶の湯の妙味が現出しました。「この取り合わせ、いいなあ」「コロナ禍で行きそびれていた蓮見が、こんな都会で味わえるなんて」「実に美味しいお茶」「惚れ惚れするお点前」などと、感嘆の声が上がりました。
実は蓮は、店主服部清人氏の提案でした。長谷としてはあくまで添え釜、展覧会の作品が主役であるべきで茶会は控え目に。「従」であるべきだという思いでしたが、服部氏の意向を踏まえて、当初の室礼プランをガラッと変えて、花屏風を扇面形に置いて、蓮池を思わす一幅の絵を描くアイデアに行きつくまで、さまざまに試行して、室礼の形を決めた経緯があります。
服部氏は蓮田で有名な愛知県西端の旧立田村(愛西市)の蓮専門店まで出かけて蓮を調達し、さらにこの企画を知った華道宝山流家元で表千家の茶人、柴田紹和氏が自邸で育てている蓮を惜しげもなく切って、好意で提供してくれました。ふんだんに蓮をいけ、さらに葉蓋で一回いっかい貴重な蓮の葉を使い捨てする、贅沢な茶会が実現しました。
蓮の葉は水揚げが難しいものです。すぐ萎れます。残念ながら前夜、店に届いた専門店の蓮の葉は翌朝には多くが縁から萎み始め、使い物になるものが少なく、一方、柴田氏提供の蓮はさすが。水揚げよく生き生きとし、生けてよし、葉ぶたにしてよし。花も蕾、咲き始め、蓮の実と花の3様を白、ピンクと2色取り混ぜて、ツボを抑えたものでした。感謝至極の差し入れでした。
季節限定の葉蓋の点前、それも逆勝手でするという非常にレアな点前のため、われわれは事前に実践稽古して、この日に臨みました。
屏風に仕込た10本の竹筒は内径が細く、蓮の茎がやっと入るほど。いくら水揚げをした葉っぱでも、萎れぎみになり、途中、何度か水注ぎをしたり、水揚げポンプで葉っぱに茎から水を注入したり。茶会終盤はうなだれた葉っぱを葉蓋にして間引きしていったところ、花屏風の景色がむしろ次第にスッキリしていったのは、時の移ろいがなせる業というものでしょう。
この展覧会は、口鼻だけでなく目まで覆い隠す一見ショッキングな自画像を内省的に描くLika Ootaと、子供のころに慣れ親しんだコンピュータ用ゲームソフト「スーパーマリオ」を大人になって再びプレイした時の感覚にインスパイアされた心象風景を描くkt。オープニングは2人の新人画家を招いて、茶会。そのあと、3階の展示会場で、服部氏の司会により画家を囲んでトークセッションがあり、2人の創作の秘密の一端が明かされました。一見の価値ある展覧会です。
「
Zone」Lika Oota + kt 展 2021年7月17日ー24日 10:30~18:00
会期中無休
ぎゃらり壷中天 https://kochuten.net