詩画書 安保育子さん癒しの境地
水墨・墨彩展「梅 早春を開く」
自然と一体 魂再生
福祉の仕事から転身した癒しの水墨画家安保育子さんが作品展「梅 早春を開く」を2024年1月24〜28日、名古屋市瑞穂区初日町の「東山荘」で開いています。入場無料。
「梅は、私をよみがえらせ、万物の尊さを教えてくれた‥」。そう語る安保さんは日本福祉大学院修士課程を出た福祉のエキスパートでした。福祉施設の所長を務めていた4年前、仕事も何も、手につかないほど行き詰まっていた、といいます。
そんなある日、寒中に蕾を膨らませる老梅が目に入りました。ただ無心に"今、ここ"を生きる梅の強さ、美しさ。絵筆をとって無心に梅を描くうち次第に、過去にひきづられて不安に苛まれて凍っていた心がとけだし、あるがままの自分を認められるようになりました。
「自我を解き放って、自然に没入する水墨画の世界観が、私の魂に響き、また、絵を描く喜びを取り戻しました」
作品展では、水墨画第一作となった2点を、大好きな空間である茶室2席に飾りました。
このうち自然豊かな山畔にある茶室には、軸装した梅の絵を床の間に掛けました。初日は名古屋では珍しく夜半からの雪。冬枯れの日本庭園は雪化粧し、雪が大気中のチリと都会の騒音を鎮めた特別な一日でした。ここの茶室は、まさに市井の山居。出かけるには難儀な極寒でしたが、水墨画を囲んで清談するにはもってこいでした。
加藤おりはさんと「有楽流茶癒」のお茶仲間が加勢して、お客に抹茶を振る舞いました。喫茶し終えると、お着物姿の安保さんが現れ、水墨画と向き合うことになったいきさつを語りました。
電灯を消して、自然光で見る梅の絵は格別でした。雪あかりが薄暗い茶室に墨跡窓から差し込んで、墨と筆そして水によって白い画面に託されたさまざまな思いが浮かび上ります。安保さんが再出発するきっかけとなった処女作「梅 早春を開く」が陰影豊かにその深奥を垣間見せました。
福祉の現場で、人知れず悩んだ安保さん。作品に宿る癒しの力によって様々な人たちと出会い、縁を結び、作品展には異ジャンルの5人の友情出品。メイン会場の和室は、一見バザー会場に紛れ込んだよう。彼女が広げる友情の輪と熱気を感じました。
墨にはいくつもの濃淡の色調があります。グラデーションや滲み、よどみない流麗かつ力強い線へ千変万化する筆跡。これらが相まって、水墨画は多彩な表情を見せます。
安保さんは独学で始めた水墨画の基礎を学ぼうと師匠に就く一方で、彩色を施した墨彩画にも挑み、同じモチーフを様々に描いた連作を出品しました。
一枚の和紙では描ききれない満開の紅梅の巨木は、何枚もの絵を畳に広げたて折り重なるように展開し、衝立にも掛けたりして、和室ならでは展示法が印象的です。菊の絵は、何枚もの墨彩画が織りなす菊花壇のよう。
詩文を得意とする安保さん。もう一つの肩書きである「ものがたり作家」らしく、作品の心を日本語と英訳を付けて案内。ときに絵に画賛のように詩的なタイトルを書いて、独自の詩画書一体の境地を模索しているようでした。
近代作家たちの詩文を毛筆する詩文書の枠を超えて、俳画のように、自ら紡いだ詩的な画題を画中に添えます。独自の作風は注目され、筆をとってわずか4年ながら、第59回 創玄展(創玄書道会) 詩文書部第二科 「二科賞」(2023年2月)、第71回 中日書道展近代詩文書部 一科「準特選」受賞(2022年5月)など、受賞を重ねて、頭角を現しています。
安保育子さんのメッセージです。
「梅 早春を開く(如浄禅師の言葉)」
絵を描く喜び、初心を見失っていた折、
水墨画の梅邨師匠に出逢いました。
"森羅万象を深く洞察し、
観念や主観や自我を放下して、
自然と一体となるべく、創作に向き合う"
この水墨画の世界観が、私の魂に響き、
また、絵を描く喜びを取り戻しました。
私は、再び梅を描く為に、筆を取りました。
When I lost sight of the happiness of drawing, I met a master of SUIBOKU(Sumi ink painting).
"A deep insight into the universe,
Letting go of ideas, subjectivity, and ego,
To be one with nature, & Facing creation"
The worldview of this SUIBOKU
touched my soul,
I also regained the happiness of drawing.
I picked up my brush to paint the Ume again。