味わう

味わう

一器・一花・一菓
〜古唐津の種壺 雑器の美〜
千変万化の飴釉水指
滋味あふれる田夫野人

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 田夫野人(でんぷやじん)然として朴訥そのもの。農村の粗雑器の生まれながら、仔細に見れば、その技巧は凡ならず。今日の稽古で、久しぶりに、古唐津の種壺を引っ張り出して、点前座に据えてみました。

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 水指(みずさし)は茶席で水を蓄えおく容器です。煮えたぎった釜湯に柄杓で水を注いだり、茶碗、茶筅をすすいだり、湯水が減った釜に水を注ぎ足したり。風炉釜と隣あって据えられる風炉のシーズンはどこまでも脇役ですが、釜が炉に据えられて点前座の中央あたりに一つ置きされる姿は、茶席のあるじ然として、なかなか存在感を放ちます。

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 信楽焼の蹲(うずくまる)にも似た姿です。じっくり見れば、ひねり返しがきいた玉縁の口造り。口元から撫で肩、ふっくらとした胴を経て底に向けてわずかにすぼまってゆく、その素直な曲線。肩に二重の沈線をめぐらして溜まった飴釉が黒っぽい帯となって全体を引き締めています。首あたりにわずかに釉の掛け外しがあり、露胎した土味は伝世の朝鮮唐津と同じ、赤褐色を呈しています。

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 なにより魅力的なのは、飴釉が窯の炎に焼かれて千変万化。首あたりではムラムラと濃淡を描き、そこから底へ向けていく筋もいく筋も流下。褐色一色ながら釉肌の景色は、見飽きることがありません。


 白濁の藁灰釉が上掛けされておれば、立派な朝鮮唐津の水差しですが、この田夫野人には華やかさは似合わない。飾らずして滋味のある飴釉一色がお似合いでしょう。
 種子を蓄えておくための雑器が、茶の湯の水指に引き立てられたのも、うなずけます。
 種壺は信楽や備前、常滑などの釉薬をかけない焼締の窯の種壺がよく知られていますが、唐津でも農村の需要はあったのでしょう。
 古唐津の壺らしく、陶土を叩き締めて成形する叩きづくり。壺の上下を分けて整形し継ぎ合わせる「胴継ぎ」、底は板起こし。伝統の技法が見られます。

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 作為に満ちた織部好みの茶器オンパレードの茶会を先週催しました。その反動が自分の中に生じて、こんな純朴な器で茶をしたくなったのでしょう。
 茶の湯は作為の美と無作為の美を振幅しつつ、動と静の中に自分なりの色を見出してゆく作業でもあります。
 たとえ稽古であっても、一期一会の気持ちを忘れず。その日の心のうち、時候を踏まえた花と道具をまじえて、新鮮な心もちで臨もうと心がけています。