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磐優愛「賤の小田巻」劇的に
磐優の道成寺 情感込め
花柳流美優会 古典舞踊に成果

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「舞い踊る美と伝統 花のように 国際文化交流を紡ぐ」と題した日本舞踊花柳流の第15回美優会が2023年11月11日、名古屋能楽堂で開かれました。

 会主の花柳磐優(ばんゆう)さんは「紀州道成寺」、娘の磐優愛(ばんゆめ)さんは「賤の小田巻(しずのおだまき)」を踊り、古典舞踊にドラマチックな人物造形を注入した四代家元花柳壽輔師の長唄振付作品の魅力、奥深さに迫る踊りを披露しました。

 東京、京都の第一級の演奏陣のほか、地元名古屋を代表するからくり人形師、花道家、俳優を招いて、舞踊、長唄、箏曲、からくり人形、生け花と様々なジャンルの文化芸術を一堂に集めた催しでした。

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 3部構成からなる公演第1部は、古典舞踊。磐優愛さんは、長唄の人気曲目のひとつとして知られる賤の小田巻。源義経の愛妾だった白拍子・静は、吉野山で追われる身となった義経と悲しい別れの後、頼朝配下に捕らわれ鎌倉に送られます。

磐優愛さんは、正面舞台へと続く橋掛りの途中で立ち止まり、鎌倉への道中、不安と義経への慕情が入り混じるも、ある秘めた決意をにじませます。正面舞台に進むと、そこは鶴岡八幡宮。恨みを込めた強い視線を送る先に、威丈高な頼朝が見えるよう。口上きっぱり、頼朝の所望あっての舞であることを告げ、白拍子の舞を披露しました。

 現代の傑出した日本舞踊家であった壽輔師の作舞は、人物造形に優れ、一人芝居さながらに踊りをドラマとして彫琢。長唄の歌詞に合わせて、パントマイム的、演技的な振りに終始することなく、舞踊ならではの大胆な省略と緻密な心理描写によって、人間ドラマとして浮き彫りにします。

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 磐優愛さんが師事する花柳源九郎さんは、壽輔師の秘蔵っ子。その振り付け、演出意図を直に受けて助手として代稽古する中で、舞踊家としての才能を伸ばした実力派。壽輔師作品の息吹きを直伝で伝える稀有な存在です。

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 本衣装、鬘で踊った磐優愛さんに対して、磐優(ばんゆう)さんは、半素の衣装(はんすのいしょう)。本衣装と着流しの素との中間のいでたちで、長唄「紀州道成寺」を踊りました。


 修行僧の安珍にひと目ぼれをした娘清姫は、安珍に約束を反故にされて一途の愛が妄執、憎悪に転じて蛇に変身。道成寺の鐘の中に隠れた安珍を鐘ごと巻き付いて、恋の炎で焼き殺してしまうというストーリーです。
 壽輔師の振付は、清姫の人物像を浮き彫りにして、後に蛇となって鬼女になる不気味さを、踊り手に求めます。白拍子に変装した磐優さんの清姫は、橋掛りで2度立ち止まって、恋慕の情が妄執となって憎悪の熾火(おきび)が燃え盛ってゆく様子を表します。

 能の道成寺では、乱拍子で主役(シテ)と小鼓との息詰まる様な応酬が延々続きますが、壽輔版では鋭い応酬は一回、直ぐに急の舞に移ります。このあたりのテンポの小気味よさ。鐘入りはさらに切り詰めて、清姫が烏帽子を落とすや、両手を掲げてくるりと回して、落ちてくる鐘に飛び込む様を表現。粗略な一筆書きが物語のクライマックスをキリッと描きます。

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 鱗文様の衣装を着けて蛇体、鬼女となった清姫は、数珠をくって調伏しようとする源九郎さんの住僧に、打杖を振るって戦います。まるで殺陣のような激しさで、住僧に襲いかかる清姫。歌舞伎舞踊の形式的な立ち回りとはまるで違う、リアルさです。

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 京都から招いた箏曲の名手、大谷祥子さんは第1部の曲間に、現代音楽の吉松隆さん作曲の十七絃箏のための「なばりの三ツ」を独奏しました。「なばり」は古語で「隠れる」の意。暗く激しい展開から再び暗く回帰する音楽は、紀州道成寺への序曲として、好選曲でした。演奏難度が高い曲を、そうとは感じさせない高度な技巧で表現豊かに弾きました。

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 第2部は一転、華やかで軽やかな舞踊2番。現代箏曲の中井智弥作曲「花のように」の演奏に乗せて、磐優さんは舞扇を両手で華麗に扱って舞いました。続いて磐優愛さんとお弟子の花柳優七斗さん、石川莉杏さんが、舞「祈り」を軽快に踊りました。

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「花のように」は、音域が広い二十五絃箏と尺八のための楽曲です。尺八パートを藤舎推峰さんは笛に置き換えて、超絶の吹奏。藤舎さんは篠笛の可能性に挑むかのような超絶技巧を駆使して、大谷さんの二十五絃箏と音楽の応酬を繰り広げました。

 第3部は、日本の歴史、文化に造詣深く「だから日本は世界から尊敬される 」(小学館新書) などの著書があるサンマリノ共和国の駐日大使マリオ・カデロさんを来賓、講師に招いて外国人から日本はどう映っているのか、そんな視点の講演会でした。

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 能楽堂の舞台を三方から取り囲むように、河村花斧さんの生け花の大作が公演を彩りました。最初は、舞台向かって右手、玉砂利の敷いてある白洲に置いた超大作1点。舞台の引き立て役として見事でした。それが、第1部が終わった休憩中に、6、7人のスタッフが大甕と花木を持ち込んで、まず脇正面、さらに正面左隅の白洲の2箇所まで生け込みが始まり、そのパフォーマンスにびっくり。舞台に花を添えるはずが、客席の位置によっては舞台の目障りとなり、いささかやりすぎでしょう。


注目の公演だったと見え、客席には評論家やメディア関係者らの顔が見え、日本舞踊では珍しく在名テレビ局メ〜テレが同夜のニュースで放送しておりました。中日新聞も後日取り上げていました。

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 聞くところでは、本公演は名古屋市民芸術祭の伝統芸能部門に応募したものの落選、参加すら認められなかったそうです。
名古屋市民芸術祭は、芸どころ名古屋の舞台芸術を実演審査して、賞を授与するコンペティションです。
 市民芸術祭を巡っては近年の選考について一部で批判、疑問視する声が出ており、参加申請自体を見送るケースも側聞します。舞台芸術にかけるアーティストを励まし、育て、芸術文化の発揚に資するコンペティションであってほしいと思います。

WEB茶美会は、市民芸術祭の主催者である名古屋市文化振興事業団に対して、書類のみとなっている現行の申請のやり方を改善するよう提案します。補足資料として最近の舞台を収録した映像、録音を付けることを認め、審査の判断材料とするよう、検討してほしいと思います。
 WEB茶美会編集長 長谷義隆
(公演撮影©️Kazuma Sugihara)