味わう

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「五十鈴たたら舞」名人と競演
名古屋能楽堂「古典芸能へのいざない」
加藤おりはさん宝剣"七支刀"で初演舞

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 WEB茶美会編集部員で舞踊家の加藤おりはさんが継承する古代舞「五十鈴たたら舞」が2023年10月5日、名古屋能楽堂で開かれたステージ「静と動 古典芸能へのいざない」に招かれ、日本芸術院賞受賞の日本舞踊家、中村流家元の中村梅彌(うめや)さんら名手と競演しました。

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 加藤さんは、奈良・石上神宮に伝来する国宝の古代宝剣を模造した「七支刀(しちしとう)」をファンから託されて、本公演で初披露。七支刀を捧げもって、橋掛りから本舞台に進み、 神が憑代(よりしろ)としたご神木を象ったとされる能楽堂の背景画・鏡板を神域に見立てたのでしょう、鏡板に向かって拝礼すると、 七支刀を振るって厳かに剣舞を演じました。

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 丸山太郎さん、城戸久人さんが何種類もの打楽器を操って伴奏する中、五十鈴や麻で作った大幣を打ち振るう社中9人と共演した、神秘的な奉納舞は次第に高潮。神々を賑わすようなダイナミックな舞で、公演タイトル通りの「静と動」を繰り広げました。

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 舞楽伝統の「左舞」よろしく左旋回しながら五十鈴を鳴らす加藤さんに対して、社中は「右舞」さながら右旋回。様式美に満ち、現代に生動する古代舞の世界に、会場を埋めた観客から大きな拍手が送られました。

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 本公演は、国際的な女性奉仕団体の日本支部「国際ゾンタ26地区」が大会前夜祭として、公募した観客を招いて開催。

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 歌舞伎の大名跡、中村芝翫の家に生まれた中村梅彌さんは、人間国宝であった父、七代芝翫の跡を継いで日本舞踊中村流の八代家元を襲名。卓越した芸術、文化を体現した人に贈られる日本芸術院賞を2016年に受賞。日本舞踊の最高峰の一人です。観客を巻き込んだ手振りのワークショップをした後、祝儀曲の長唄「島の千歳」を、気品高く流麗に踊りました。江戸後期に活躍した三代中村歌右衛門を流祖とする成駒屋のお家芸を、中京地区で見る貴重な機会となりました。


 もう一人の出演は、現代を代表する能楽師、梅若六郎(現・梅若実)さんの薫陶を受けた若手能楽シテ方、伶以野(レイヤー)陽子さんでした。分かりやすいちょっとくだけた話ぶりで能舞台や能の特徴を軽やかに解説。能「八島」の一節を謡一人と小鼓が一対一で演奏する「独鼓」に続いて、龍神に奪われた宝珠を我が子のために決死の覚悟で海底に潜った海女の物語「海人」の玉取りの段を、紋付袴姿で舞いました。

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 本公演では、古典芸能である日本舞踊や能楽が前半に上演され、休憩後のトリとして加藤おりはさん率いる五十鈴たたら舞が登場。見終わって「まるで神社神域にいるよう」と、神秘感に感動した司会者の言葉とおり、日本人の奥底に眠る潜在意識に働きかけるような舞に、会場から惜しみない拍手が送られました。

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 加藤さんは「能舞台の床を足踏みで鳴らす、たたらの響きは、最高でした。ああ、また踏みたい」と語り、七支刀の初演舞については「どう舞うかとても悩んだけれど、刀を振って見せることで、確かな何かに触れている感覚があって、命が芽吹くようでした」と手応えを話していました。


 加藤さんが受け継いだ五十鈴たたら舞は、世界67の国・地域に1200のクラブがある国際組織の会長と日本支部の代表らが臨席した本公演で、伝統芸能の名手と伍して「日本の古典芸能」の域にあると評価されたといえ、WEB茶美会は今後もその活躍に注目していきたいと思います。