一器・一花・一菓
古瓢箪に秋の5種
野趣豊かに陰翳礼讃
先日の「敬老の日」に拾穂園で催した四季の茶の湯中秋編。後座の薄茶席を飾ったのが、銘「寿老人」の古瓢箪の手付花入に投げ入れた5種の草花です。
籠に秋の草花を可憐に生ける、そんな趣向がこの時季の定番。定番の組み合わせの差異では、どうしても似たり寄ったりになりがちです。もっと時季にぴったりの野趣を出せないものかと。次の5種を取り合わせてみました。
鍾馗水仙(ショウキズイセン)、虫食いの蓮、照り葉、白菊、矢筈すすきです。
鍾馗水仙は彼岸の頃になると、鱗茎から花茎をすっと伸ばし、茎先に花径6~7㎝の鮮やかな黄色い花を横向きに数輪咲かせます。彼岸花の近種で、黄色の彼岸花ともいわれます。朱色の彼岸花ではやはり茶席には向かないので、咲き始めの鍾馗水仙を彼岸花に見立て。寂びた古瓢箪と映え合います。
凛としながらも適度に虫食いになった蓮の葉を選んで、虫が食った葉の間から鍾馗水仙の黄、照り葉の燕脂、白菊の白の3色がさりげなく映るように配置。背後にはすがれた矢筈すすきを立てて、もの寂びてゆく秋の風情を狙ってみました。
この日の四季の茶の湯では、さまざまな伏線を張って、全体は陰陽の対比によって展開し、炭手前、初座濃茶、後座薄茶と座がわりするたび、席の雰囲気をがらっと変えて、伏線回収して起承転結を目論む。その都度、席入りしたお客様から、驚きまじりの感嘆の声がしきりに上がるのが、襖越しに水屋に聞こえてきました。
「ご亭主は、お客を驚かせるのがお好きなんですね」。そんな問い掛けが、招客からありました。「そうですね。秘すれば花、と言うようにサプライズは大切です。しかし、自分自身がワクワクするようなことをしなければ、お客様にも伝わらない。そう思って、毎回苦しみながら(笑)、楽しんでいます」
千利休は、台子伝授に際して茶の湯を極意を問う織田有楽斎に対して「総じて茶道に大事の習といふことさらになし、皆自己の作為機転にて、ならひのなきを台子の極意とする」と、言ったそうです。
有楽流の末端にいる者として、利休の創造精神の衣鉢を継いだ織田有楽斎の創意工夫を、いかに自分なりに実践してゆくのか。伝統の上に立って、この時代に響く茶の湯をいささかなりとも工夫したい、と願っています。
この日のお客様から頂いた、感想です。
「本日は、席入、初炭手前、中立、席入!
思わず!わー!和蝋燭の独特のユラユラの明かりに灯された
清風払明月の軸。秋の夜長を楽しんだかと思いきや、
中立、席入。ひやー。眼前に広がる、手入れの行き届いた立派な庭。
そして、豪快な花!
陰陽の差をクッキリと付け、楽しませて下さる手腕に、脱帽です。
ご自宅でのお茶ならではの、演出、本当に楽しませていただきました」
過分なほめ言葉ですが、共感していただけるお客さまがいてこそ、励みになります。