味わう

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一器・一花・一菓
「冷え枯るる」古信楽種壺
水指に、花入もよし
朴訥とした風体

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 先年、古美術店の店頭で見かけた古い壺に、心引かれました。ずんぐり、むっくり。洗練とは程遠い。野良着の風体(ふうてい)です。しかし、その焼き締まった肌は、田夫野人のように日焼けして浅黒く、自然に溶けた釉垂れも渋く、底光りする美しさが。これが「冷え枯るる」というのでしょうか。

 「いっとくけど。これ、室町時代の古信楽だからね。備前焼研究の権威かなんか知らないけど、(桂)又三郎は我田引水もいいところ。何でも備前焼にしてしまうから。こんな極書、どうでもいいけど。ま、一応、あるにはあるよ」。
おそるおそる、値段を尋ねてみると店主は「まあ、わたしにまかせときゃあ。半値八掛け二割引き。悪いようにしないから」。
箱を見せてもらうと、時代の箱に「古信楽 種壺(たねつぼ)」とあり、あえて古備前とする桂又三郎の鑑定書が付いているのも、なんとも不思議。「古備前より、古信楽の方が数が少ないから、希少だよ。こんな鑑定書は捨ててもいいけど、そのままにしておくから、好きになされ」と店主。
「半値八掛け二割引き」なるお代もよく分からないまま、ツケ払いで。風呂敷に包まれた古信楽の種壺の箱を抱えて、帰宅しました。


 あれから、20年近く。折々、出しては、大事な一会にこの野の大人然とした風情の種壺を取り合わせてきました。

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 先日拾穂園で開いた「愉か多会」で、久々に水指として使いました。本来、畳にじか置きのところ、鉄風炉との取り合わせ上、生節(いきぶし)の松木地を長板代わりにして、据え置きました。

 種壺は、種子を保存容器だった焼き締めの壺。同様のものに種浸壺(たねひたしつぼ)があります。 種浸壺は、種を水に浸して発芽を促すために用いられた壺です。種壺より大き、胴に膨らみがあり、肩には耳がついていないとか。

侘び茶が芽生えた中世の茶人は、冷え、さび、やせ、寒く、枯れた、風体を求めました。あの珠光も『心の文』の中で、「冷え枯れ」「冷えやせ」た風体に言及しています。武野紹鷗は「連歌ハ枯カシケテ寒カレト云、茶湯ノ果モ其如ク成タキ」と常に言っていたといい、利休も師の紹鴎の説を承けて、さらに「冷え枯るる」風体を極めました。
 利休以前の侘び茶のありようを体現するような、この壺。「冷え枯るる」風体には、朴訥とした存在感があります。