味わう

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一器・一花・一菓
「泊舟」2バージョン
停泊の静けさと、出港の気配と

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 床畳に舟を置いて、停泊した「泊舟(とまりぶね)」の趣向です。泊舟に、錨をおろした様子を象徴して花鎖などを添える向きもありまが、大型の砂張の釣舟なら、錨見立ての鎖も映りましょうが、竹の釣舟はいわば、入江の杭に綱でつなぎとめた一艘の小舟。鎖はおおぎょうに感じて、あえて花鎖を添えずに、艫綱(ともづな)を杭に繋ぐ意で敷板に置きました。

 釣花入は、床の天井の蛭釘に吊って使うのが常ですが、釣舟花入の場合はとがった方を舳先(へさき)にみたてて、床から下座へ向かう出舟、反対の入舟。床畳に置く泊舟の3種の飾り方があります。泊舟は停泊中なのですから、静けさをもっぱらに、まず床に置いてみました。

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 その上で、停泊していた舟が出港せんとする気配が出そうと、軸に向かって右手に全体をずらして、その上で舳先を客向きに少しく動かして、全体に動きの気配を与えてみました。
同じ花、花入であっても、床の間の位置を動かすだけでも、気分が変わるのに、ちょっと驚きました。

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 吊った釣り舟が風に揺られて、亭主の意を離れて微妙に動くのを愛でるのも楽しいですが、泊舟は亭主の見立て次第で、表情を変えることができるようです。

 花は擬宝珠(ギボウシ)です。行き交う舟を見守る橋の欄干を装飾する擬宝珠が連想されて、釣舟には一興と投げ入れました。